死の先に在るモノ

第7話「復讐者」(アヴェンジャー)≪前編≫

新一の元に転生して早3週間、サキは充実し満たされた毎日を送っていた。
(幾つか、ちょっとした悶着はあったが……)
あれから色々、新一の事を知った。
他県の大学で寮生活をしている、美鈴という妹がいる事。
特技や趣味、少々不器用だが生真面目で温厚な性格。
あの時の別れから今までの事。

新一も、サキの色々な面を知った。
ちょっとした仕草や癖には、そこはかとなく鷺であった事を感じさせる物があった。
料理・掃除・洗濯と何でもそつなくこなすサキだったが、苦手な物もあった。
それは『アルコール』ともう一つ、『お菓子作り』であった。
料理が上手いサキだったが、それがお菓子作りとなると、何故か途端に不器用になってしまうのだった。
事実、新一がサキの制止を振り切って試食したクッキーは、

「不思議な……独創的な味だね……」

……と、引きつりまくった顔で言わなければならない程の出来であった。
もちろん、サキは大いに落ち込んで、新一がそのフォローに大童になった事は言うまでも無い。

 

毎日が二人にとって発見の連続であった。
一方で、新一の両親はサキが転生する6年前に飛行機事故で他界してしまった事も知った。
その事をサキに話した時の新一の顔は、とても寂しそうだった。
保険金と航空会社からの賠償金で新一と彼の妹の美鈴の進学資金に出来たのだが、しかし人の命に代えられる物では無い。
ただ、美鈴の場合は遺産を食い潰すのが嫌で高卒で働くつもりだったが、新一が進学を薦めたのと奨学金を取れたのとで進学を決意した。
でも、その大学は家から通える距離ではなかったので、寮生活をしていた。
そんな訳で、新一は木造モルタル二階建ての家で今まで一人暮らしをしていたのだ。
一人で住むには広すぎる家で……
気楽で良い……とは言っていたが、それはサキに、あるいは妹の美鈴に心配をかけさせない為の気遣いだったのであろう。
サキはそんな新一の気遣いが嬉しくもあり、寂しくもあった。
もっと頼って欲しい……それが今のサキの最大の悩みになっていた。

 

 

 

転生から3週間程経ったこの日、買い物に出ていたサキは裏通りから争うような気配を感じていた。
気配に誘われるように見てみると、どう見ても堅気に見えない人相の悪い3人の男が、一人の女性を袋小路の追い詰め、どこかに連れ込もうとしている場面であった。

「いや!! 放して!! やめてよ!!」
「よう、ちょっとぐらいいいじゃねえか」
「そうそう、オレたちがおもしろいところへ連れて行ってやるからよ」
「おら! 大人しくしろや!」

思わず、サキは険しい声で割って入っていた。

「いい加減にしたら? 大の男が……みっともない……」

その声に慌てたように振り返る男達。

「だ、誰だテメエは!?」
「ちっ、見られちまったぞ。どうする?」
「構わねえ、一緒に連れて行っちまおう。……ほう、よく見ればかなりの上玉じゃねえか。おい、やれ」
「へい。へっへっへっ、お前も大人しくするんだな」

だらしない顔をして、隙だらけで掴みかかってくる男の手首を逆に掴んで、そのまま背後に回り思い切りねじ上げる。

「い、いででででで、や、やめろ……」
「て、テメエ!!」
「このアマ!!」

仲間がサキに手も無く捻られたのを見て、一瞬男達に隙ができる。
絡まれていた女性は、その隙に男達の手を振り解くと、サキの脇をすり抜けるように走り去る。

「あ、待ちやがれ!!」

女性の手を掴んでいた男が追いかけようとしていた。
そうはさせまいと、サキは男をねじ上げていた手を放し、追いかけようとしていた男の足を引っ掛ける。
追いかけようとしていた男は盛大に転倒し、その隙に女性は裏通りから表通りへと姿を消す。

「テメエ!! ぶっ殺す!!」
「覚悟しやがれ!!」

そして、まんまと逃走を許し、引っ込みが付かなくなった男どもは、そのきっかけを
作ったサキに対し、3人がかりで殺気立ちながら向かってく行く。

 

 

 

「く、くそう……この女」
「もう終りかしら?」

サキは、大した事はしていなかった。
フットワークのみでひたすら攻撃を避け続けてゴロツキどもの自滅を狙ったのである。
そして、それは見事に図に当たった。サキを捕まえようとして、3人同士で互いに衝突したのだ。

「フザケやがって!!」

男の一人が逆上してナイフを取り出す。

「バ、バカ、何やってんだ!!」
「こ、こんな所で、止せ、新実!!」

そして仲間の静止も構わずにサキに切り付ける。
だがサキは余裕で避けると、新実と呼ばれた男の手首に強烈な手刀を振り下ろしてナイフを叩き落とす。
そして地面に落ちたナイフを蹴り飛ばす。
ナイフは回転しながら溝に落ちる。

「お、おのれ……覚えてろ!!」

この程度で息が上がり、さらに切り札のナイフを失ったゴロツキどもは、お決まりの
(三流悪役そのものの)捨て台詞を残すと、そのまま逃走していった。
その後ろを姿を見送っていたサキは小さく溜息をつく。

「全く……人間って……ご主人様はあんなのとは違うけど……」


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