>4年前(当時のレオンの視点だと同じ年)
地元の大学を卒業した新一は地元の自動車販売会社に就職し、営業の仕事に就いていた。
その日、新一は仕事の帰りにリサイクルショップを覗いていた。
ふと、ある手鏡に目が止まる。
縁の部分に『羽を広げた一羽の鳥』が浮き彫りにされた、銀製の年代物と思われる手鏡だった。
「ん? これは……? ……鶴? じゃないな。材質は、銀かな? ずっしりとしているが……」
「その鏡がお気に入りですか?」
突然背後から声を掛けられた。
吃驚して振り返ると一人の女性店員が佇んでいた。
店員にしては妖艶すぎるような気がしていたが。
「いかがです? 銀の鏡は魔除けの効果がありますよ。なんでしたらお安くしておきますが……」
「いくらですか?」
「200円です」
その言葉に何故か、自分でも分からないうちに即答してしまっていた。
「買います!」
「お買い上げありがとうございました。これであなたはツイてきますよ……」
「へ?」
妖艶に微笑む店員と呆気に取られる新一。
この時、レジにいたアルバイト店員がしきりに首を傾げていた事を新一は気が付かなかった。
「おっかしいなぁ~。ウチの店員にあんな人、居たかなぁ?」
新一は自宅のガレージに車を入れ、玄関のドアの鍵を開ける。
「ただいま……」
しかし、返ってくる声は無い。新一はこの家で一人暮らしをしていた。
風呂の給湯スイッチを入れる。風呂を沸かしている間に背広を脱ぎ、夕刊を広げる。
それがいつもの日課であった。
風呂上がりの新一は、Tシャツにジャージというラフな姿で早速先程の手鏡を覗き込みながら身嗜みをチェックしてみる。
そして何気なくつぶやく。
「このレリーフの鳥、なんだろう……鶴? 白鳥? 鷺……鷺? そういえば……」
新一の脳裏に昔の日々の思い出が稲妻の様に蘇って来た。
……一羽のダイサギ……
……偶然の出会いと悲しい別れ……
……昔の自分と一緒にその世話をする女性……
と、その思い出が蘇るのを待っていたかのように、手鏡の鏡面から眩い光が溢れ出す。
驚いて思わず目を閉じて手鏡を取り落としてしまったが、その光はどこか懐かしい感じがした。
光の洪水が収まった時、其処には一人の……銀髪のショートヘアで10代後半と思われるが、落ち着いた感じの女性が佇んでいた。
その瞳は涙で潤んでいた。
「……お久しぶりです。ご主人様……」
「……一体、き、君は……まさか……あの時の白鷺の……サキ、か?」
サキと呼ばれた女性の深緑の瞳から涙が溢れ出す。
「覚えていて……下さったのですね……嬉しいです……あ、あれ……こんなに嬉しいのに……涙が止まらない……あ……」
新一はサキを抱き締める。
「君と……またこうして再会できるなんて、夢のようだ。もう、俺に黙って、勝手にいなくならないでくれよ……」
「ありがとうございます、ご主人様。涙って嬉しい時にも流れる物なんですね……」
落ち付いたサキは新一に今までの事を語る。
「私はあれから『めいどの世界』という場所で修行を積んで『守護天使』となったのです。ご主人様を守る為に」
「守護天使? 俺を守る……?」
「そうです。鷺だった私はあの日、不本意ながらこの世を去らなければなりませんでした。でもどうしても、再びご主人様に再開して恩返しがしたかったのです……密猟者の罠に掛かって怪我をしていた私を助けて下さったご主人様に……」
「そうか……」
今だ、半信半疑な……というか思考が付いていっていないのか、やや上の空で答える。
そんな新一を安心させるかのようにサキは、はっきり宣言する。
「ご安心下さい。ご主人様は私がこの身に変えてもお守り致します」