どのくらいそうしていたか、分からない。家の前に車が止まる音が聞こえた。
車のドアが閉められる音が聞こえ、玄関のドアが開けられる。
この気配はサキが一番会いたくて……今は一番会いたくなかった気配であった。
心配をかけまいと、顔を洗うために洗面所に行こうと立ち上がる。
だが、足にきていたサキは2・3歩歩いた時点でそのまま倒れる。
「ん? サキ? !! ど、どうしたんだ!!」
新一は、サキの泥と血で汚れた服と顔を見て驚愕する。
「誰にやられた!? 美鈴は? ……まさか、あいつらか?」
その新一の言葉に、とめどなく涙を流しながら答えるサキ。
「うぅ……ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……私が……うっ……私がいながら……」
「サキ! あいつらは何て言ってた? 答えてくれ!」
新一はサキを抱き起こしながら問い詰める。
「例のブツと……美鈴さんを……交換だ……そう言っていました……ううっ……」
「……あいつら……おのれ……俺だけならまだしも……美鈴を誘拐し、あまつさえサキにまで暴力を振るうなんて……」
普段は温厚な新一だったが、この時は本気で怒っていた。
当然、サキも新一がここまで怒ったのを見たのは初めてだった。
サキの傷の手当てを終えた新一は客間に飾られた風景画の額の裏から一冊の大きな茶封筒を取り出した。
「くそっ!!」
怒りと嫌悪に満ちた忌々しげな口調で吐き捨てた。
サキに気が付かれないよう、こっそり玄関に来たつもりの新一だったが、そこにはサキが既に待っていた。
「……ご主人様! 私も行きます!」
驚いた様に立ち尽くす新一。だが、首を横に振る。
「駄目だ! サキはここで待っていろ」
「いいえ、何と言われようと私は付いて行きます! それに……また美鈴さんを人質に取られた場合、ご主人様お一人では手も足も出せなくなってしまいますよ」
ここまで言って、サキは新一を安心させるように微笑む。
その顔に数ヶ所貼られた絆創膏が、却って痛々しさを醸し出していた。
「それに、私の体は心配しなくても平気ですよ。本来、守護天使の体は人間よりずっと頑丈に出来ているのですから……」
サキの口調とその瞳の中に宿った強い意志の光を認めると、新一は根負けしたように
言う。
「分かった。でも無理はするなよ」