美鈴は人相の悪い4人の男達に囲まれ、その一人に羽交い絞めにされていた。
そして、美鈴を羽交い絞めにしている男がリーダー格らしかった。
そしてその男の周囲にいる男3人には見覚えがあった。
昨日、美鈴を連れ去ろうとしていた男達だった。そいつらが2台の車で乗り付けて来たのだ。
だが、サキと美鈴を追ってきた、という訳ではなさそうだ。
そいつらは明らかにサキを見て驚いた表情をしていたから。
「あ? ほう、オマエもこの家の住人だったのかい。なら話は早いな」
「何を言ってるの!? 彼女を……美鈴さんを放しなさい!!」
サキのその言葉を無視するかのように、男の一人がリーダー格の男に話しかける。新実と呼ばれていた男だった。
「へへへっ、アニキぃ、こいつが昨日話したクソ生意気なアマでさあ。んで、このアマちょっくら痛めつけてやりたいっすけど……」
「おう、さっさとやっちまいな。一応殺さない程度にはしておけよ。ところでよ、そこの姉ちゃん」
アニキと呼ばれたリーダー格の男は面倒くさそうに答えると、濁った目をサキに向ける。
「こいつらに反撃してもいいんだぜ。だが少しでも抵抗したら……抵抗する素振りでも見せたら、この嬢ちゃんの綺麗なお顔に一生消えない傷が残るぜ。そこを良く考えるんだな」
「くっ……卑怯な……」
「おい、林、ちゃんと捕まえていろよ」
「へい、了解でさあ」
リーダーの男は、必死に暴れる美鈴を車の中に連れ込む。そして林と呼ばれた部下に
美鈴を車の中に押し込ませると、その車を発進させた。
美鈴は何か叫んだが、それは車のエンジン音に掻き消され、サキの耳には届かなかった。
美鈴はこう叫んでいたのだ。
「お兄ちゃん助けて!!」
……と。
その場に残されたのは、歯軋りせんばかりのサキと、にやけた笑いを浮かべたゴロツキ2人とそのリーダー格の男であった。
「へへへ、昨日は散々どついてくれたな。今そのお礼をしてやるぜ! オラァ!!」
サキの腹部に新実の拳がめり込む。
思わず、体をくの字に折ってしまったサキの側頭部にもう一人の男の蹴りが入った。
サキは吹き飛ばされ、背中から門扉に叩き付けられる。
咳き込みながらうずくまるサキは再び腹を蹴られる。一瞬息が詰まり、そのまま崩れ落ちる。
「オイ、立てや」
その声に促されるようにサキはゆっくり立ち上がると、頬を殴られていた。
「あっ!」
口の中が切れ、口から一筋の血が流れる。
そして再度鳩尾に拳がめり込む。
「ぐうぅぅぅっ」
呻いて倒れたサキに二人のゴロツキは容赦なく蹴りを入れる。
サキは体を丸めて頭を抱え、声を上げずに必死に耐え続けた。
「井上さん、こいつ、こんな反応が無いんじゃつまらないっすよ」
数分後、サキを蹴り続けたゴロツキの一人が、リーダー格の男・井上に呼びかける。
サキは殴られ続け、ぐったりした様子で地面に横たわっていた。
それでも、一向に泣き叫けぶ様子が見られない事に飽きたのか、倒れたサキを足蹴にしながら言う。
「アニキぃ、そろそろコイツ、やっちゃっていいっすか? オ、オレもう……」
下卑た笑いを浮かべる新実だったが、井上はそれを制止する。
「今は止せ。秋川の小僧が帰ってきたら面倒な事になる。それより、この姉ちゃんに伝言を言ったほうが手間が省ける」
井上はサキの髪を掴んで持ち上げる。
髪を掴まれて持ち上げられ、あまりの激痛に思わず涙を浮かべるサキ。
それでも悲鳴を上げそうになるのを必死で耐え続けた。
井上は、そんなサキを嘲笑うかのように、血と泥で汚れたサキの顔に自分の顔を近づけて言う。
「今日の所はこれで勘弁してやる。だが嬢ちゃんは預かっておくぞ。秋川の小僧に言っておけ。例のブツと嬢ちゃんと交換だと」
井上が、サキの髪を掴んでいた手を放す。サキはそのまま崩れ落ちるように倒れる。
「おい新実、橋本。ここでおねんねされたら面倒だ。家の中に入れてやれ」
新実、橋本と呼ばれた二人の部下はサキを引き摺るような扱いで家に入れると、玄関に放り出す。
しばらくすると、車のエンジンがかかる音がして車が走り去る音が聞こえた。
そのまましばらくの間ぐったりしていたサキだったが、ゆっくりと起き上がり、よろめく足取りで居間まで行くと、そのままテーブルに突っ伏す。
サキの肩が震え、口から嗚咽が漏れる。
「う……うぅぅっ……うっ……」
そして、知らずの内に涙が溢れ出していた。
信じられなかった。理不尽な仕打ちが。
許せなかった。無力な自分が。
痛かった。体も心も。