>4年前
相変わらず、俺は機械的に任務を繰り返す日々を過ごしていた。
セリーナとはオフでの友人付き合いは変わらなかったが、俺は一隊員(一級守護天使)のままだったのに対し、セリーナは部隊長(8級神)になっていた。
幸か不幸か、俺は血生臭い任務とは無縁でいられたが……
しかし、将来の展望も生き甲斐も何も無かった。この時期の俺は、半ば現実から逃避していたのかもな。
それが変わったのが、ある指令を受け取ってからだった。
ロイ司令から渡された指令書、これをセリーナに届ける……これが今回の任務だった。
いつもならセリーナに届けて、それで終わりのはずだった。だが今回は違った。
指令書を読んでいたセリーナの顔が次第に強張って行く。書類を読み終えたセリーナは顔を上げ、俺を呼んだ。
「直ちに出るわ。大天使だけ全員に非常召集をかけて!」
「りょ、了解!」
俺は只ならぬ事態の発生を感じていた。単なる召集ではなく非常召集なんて経験した事が無かったからな。
その非常召集に直ちに応じる事ができた日本担当部署の大天使は、3人……セリーナを含め4人。
普段なら、この程度でも充分過ぎる程なのであるが、セリーナは明かに不満顔だった。
そのセリーナと思わず目が合ってしまった。
「レオン。この際、あなたに頼むわ。さあ行くわよ!」
そう言うと、セリーナ達は身を翻し、部屋から出て行った。一瞬面食らったが、俺は慌てて追いかけた。
早足で歩き続けるセリーナに追いついた俺は、任務の内容について尋ねる。
「お、おい。どうなっているんだ? 俺はまだ何も聞いていないぞ」
「これを読んで」
意外にも書類そのものを渡された。
俺は書類を届けるのが仕事だ。まあ、D.F.宛ての書類は中身を覗く事はあるが……いや、それは兎も角として……
今回はヤバそうだったので中身は見てはいない。
歩きながら受け取って読み進めると、セリーナの顔が強張っていた訳が瞬時に理解できた。
「目標は……魔王レベル10のデッドエンジェル!? 大物だな……」
思わず素っ頓狂な声を上げてしまった俺に対して、渋い表情のままのセリーナ。
「そうよ。今回はわたくしを含め、大天使のみで4人が出るわ。そこで、あなたも来て欲しいの。もし……わたくし達が全滅したら、それを上に伝える役目をしてもらわないと……」
セリーナの悲壮なまでの意気込みに俺は言葉を失っていた。
そして今更ながらに、この『特務機関』の非情さの一端が理解できたような気がした。
再び指令書に目を落とす。
「なになに……任務:捕獲……万難を排してでも……だって? 何を考えてやがる!! 上の奴等は!?」
正気の沙汰じゃない。それが感想だった。
確かに成功すれば得られる物は大きいだろう。しかしそれは成功すれば……の話だ。
逆に失敗に終われば失われる物が多すぎる。しかも確率論的要素も強すぎる。
大天使すら使い捨てにする事を厭わない上層部に殺意さえ湧いてきた。
それでも任務は任務だ……無理矢理自分を納得させ、覚悟を決めた俺は、目標のプロフィールを確認する。
「性別は女、名前は……」
生きる目標を見失った復讐者と全てを失った殺戮者……その出会いは決して祝福されたものではなかった。
むしろ最悪に近い印象でさえあった。
この時は未だ見ぬ相手に想いを巡らす余裕など無かった……
当然、あんな未来を想像する事は出来なかったんだ。
「名前は……白鷺のサキ……か」
第七話「復讐者」(アヴェンジャー)に続く……