死の先に在るモノ

第6話「偽装者」(ライアー)

>現在

「お久しぶりです。ご主人様……」

俺は持ってきた白百合の花束を捧げる。

「……27年ぶりですね……」

自分でも声が震えているのがわかる。

「今まで……挨拶にさえ来る事ができず……申し訳ございません……」

片膝を付き、深深と頭(こうべ)を垂れる。
ここは先程の根拠地跡から程近い空き地……そこに作られた土を盛っただけの塚……
ご主人様を含む、名も無きゲリラ兵達の……終の住処……
麻薬組織との停戦協定、それが有効になる一日前だった。もしかしたら、油断だったのかもしれない。あるいは末端の馬鹿どもの暴走だったのかもしれない。
どちらにしても、連中の最後の攻勢で戦死したゲリラ兵の中にご主人様がいた事だけは確かだ。
この塚を作ったのは、その時にご主人様が所属していた組織の仲間だった奴等だ。
 
ここに来る事で、自分の中のご主人様が過去の事になってしまう……そんな脅迫観念に駆られ、ここに来る決心がなかなか付かなかった。
心のどこかで、まだご主人様は生きている、と……そう思いたかったのかもしれない……
「もうご主人様はいない」という事実……これを自分自身で認めてしまう事が怖かったんだ……
ご主人様の事を忘れてしまい……自分の手で、完全に過去と決別してしまいそうで……


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