死の先に在るモノ

第6話「偽装者」(ライアー)

>27年前
それは、俺が伝書鳩の仕事を始めてから1年ほど経った日だった。
その日は戦闘が無く、のんびりと日暮れを迎えて平穏に終わる……はずだった。
そこへ奇襲してきたんだ。奴等が……
以前から縄張り云々で敵対していた麻薬組織の連中が……

夕暮れ時だった。突然、迫撃砲弾が風を切る音が聞こえたかと思うと、見張り台に命中した。
ひとたまりも無く崩れ落ちる見張り台。
それを皮切りに、銃撃が始まった。
先手を取られたこちらは、充分な迎撃体勢が整っていなかった。
奴等に一方的に押しまくられるという展開になっていた。
その混乱の隙を付くように、鳥小屋に向かう人影があった事に気が付いた人間は誰も居なかった。

「隊長! 一体何事ですか!? 何が起こったんですか!?」

混乱する拠点内部、ゲリラ兵の一人がやっとの事でカルロスを見つける。カルロスも
シンシアと共にその部下を探していのか、切迫した中にもほっとした様子で返答する。
その部下はご主人様の故郷の村人達の墓穴を掘ったあの部下、キースだった。

「奴等だ! 奴等が奇襲してきたんだ! ……キース、お前に頼みがある。シンシアを連れて脱出しろ!」

奴等……それだけでキースは敵の正体を理解した。
一方、突然のカルロスの言葉に驚きを隠せないご主人様。

「え!? そんな……カルロスを……あなたを置いてなんて行けないよ……」

カルロスは、涙目になって見上げるご主人様の頭に優しく手を置き、微笑む。

「俺は大丈夫だ。俺もすぐに追いかけるさ。何より、俺がキミに嘘をついた事が一回でもあったか? さあ! 急いで脱出してくれ! 念の為だ」

カルロスはご主人様を腹心の部下であるキースに託すと、迎撃の為に飛び出していった。
銃弾が飛び交う中を……
この時、最悪の事態をどこかで予想していたのかもしれない。
 
「? どうしたんだ? 隊長が心配なのはわかるが、急ごう」
「ねえ、お願い! レオン達も連れて行ってあげて!」

キースは逃げるに際し、ご主人様から鳩を連れて行ってもらうように懇願された。
少し渋ったキースだったが、結局は了承して、鳥小屋がある洞窟へと急いだ。
だがそこで見た物は……
洞窟から激しい炎が噴き出し、鳥小屋が音を立てて燃え落ちる……そんな光景だった。
恐らくは……鳥小屋の奥にあった予備の発電機、それを狙って火炎瓶と手榴弾が投げ込まれたってのが真相だろうな。あるいは増援を阻止する為に通信手段を……無線機と伝書鳩を狙っていたのかもしれない。
もっとも焼き殺された側にしてみれば、そんな事は全く関係ない。どちらでも同じだが。
俺達(伝書鳩)を直接殺したのは、ゲリラの内通者だった。『魔薬』の資金源化を強硬に主張していた外道……
攻撃をかける前に地雷原の場所を教え、発電機を破壊し、長を殺して奴らの手引きをしたんだ。
そして『魔薬』のデータを手土産に麻薬組織に降ったんだ。

この戦闘……いや、殺戮から無事に逃げ延びる事ができたのは、キースとご主人様だけだった。
泣きながら俺の名を呼び、洞窟の中の、炎に包まれた鳥小屋に向かおうとしていたご主人様をキースが文字通りに担ぎ抱え、もう一つの拠点へと脱出した。
そのキースも逃走劇の際に銃弾を浴び、この時受けた怪我が元で数週間後に死んだ……
そしてカルロス……奴も結局戻らなかった。死体は確認されなかったが……おそらく……
唯一の生き残りとなったご主人様は、逃げ延びたその拠点にて麻薬組織との戦いを続ける事になった。
カルロスはまだ生きている……そう信じて……


Otogi Story Index - シリーズ小説 - 死の先に在るモノ