死の先に在るモノ

第5話「圧政者」(タイラント)

将軍「な? 何事だ!」

地震という物を経験した事の無い将軍とテレーズは、突然の地響きに大きくうろたえる。

レオン「!! ヤバイ!! サキ!!」

サキは瞬時にレオンの意図を汲み取ると、剣で窓の防弾ガラスを叩き割る。
レオンは将軍とテレーズが、一瞬うろたえた隙にテレーズを肩に抱え、サキが破った窓から外に飛び出す。

将軍「く、くそ……待て……!」

最初の地響きからここまで約3秒。サキも半瞬程遅れて身を翻す。
銃口を向けてくる将軍に対して、サキは振り向きざまにボウガンで矢を撃つ。
戦果を確認する暇もなく、レオンが破った窓から身を躍らせる。
一方、銃を狙った矢は、狙いから僅かに逸れ、将軍の手に突き刺ささっていた。
銃を取り落とし、傷を押さえて片膝をついた将軍は、3人の消えた窓を凄まじい形相でにらみ付ける。

将軍「ぐおぉ……お、おのれ……」

だが、それが将軍の最後の言葉であった。
部屋のドアが突然、勢い良く蹴り開けられた。
将軍が驚き振り向くと同時に、乱入してきた全身黒ずくめの男数人が将軍に向けて発砲したのである。
数十発の銃弾が将軍の体を乱打し、糸の切れた操り人形のように……人形と決定的に違うのは鮮血を撒き散らしながら……崩れ落ちる将軍。
圧政者として恐れられ憎まれてきた男の、あまりにも呆気ない最期であった……





物言わぬ躯と化した将軍に、黒ずくめ達を掻き分けて歩み寄る人物がいた。
その人物を確認した黒ずくめ達は、一様に背筋を伸ばし敬礼する。
「大佐」と呼ばれていた男であった。

大佐「いいザマだな……我々に踊らされているとも知らずに……」

先程までの慇懃な態度は影を潜め、変わって冷徹な工作員としての顔になっていた。
将軍の死体を見下ろし、本人確認をしていた大佐は、それが終わったのか黒ずくめ達を振り返る。

大佐「状況は?」
黒ずくめA「はっ! この公邸はすでに我々海兵隊が制圧致しました。
       このパーティーに出席していた政府有力者はほぼ全員身柄を拘束しております」
海兵隊員B「他の軍事拠点や議事堂を含めた役所の大半も既に制圧された模様です」
海兵隊員C「ただ気になる点が……テレーズ女史とハリー秘書官は、既に逃走したか……
       あるいは何者かに拉致された可能性があります」
大佐「どういう事だ?」
海兵隊員A「我々がここに到着した時、窓が破れ、将軍一人しかいない状態でした。
       将軍の手には矢が刺さり、また部屋には将軍以外にも数人がいた形跡が見て取れます。
       一方で、拘束した者や死者の中にも二人はいませんでした……」

大佐はあごに手を当て、考える素振りを見せたが、すぐに結論を出す。

大佐「放っておいて構わん。
   大方、奴等を恨むゲリラの残党か何かだろう。我々が手を下す手間が省けたというものだ。
   こいつの圧政に関わった奴らはほとんど捕らえている……
   フン、それに逃げたとしても、たった二人で何ができる。
   何より……国民を虐げてきた輩を、国民が許すはずがあるまい?
   まあ、一応は手配書を配っておくが……」
 
彼は、大佐は多忙であった。次々に舞い込んでくる報告に対処する内、テレーズの事は綺麗さっぱり頭の中から消え去っていた。
そう……タイムリミットとは、このA国の軍事介入の事であったのだ。
そしてタイムリミット寸前で「捕獲」任務に半ば成功した。
A国の、この作戦の実質的指揮官である「大佐」がテレーズの事に拘れなかった事も、二人に有利に働く事になる。


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