死の先に在るモノ

第5話「圧政者」(タイラント)

自室の電気をつけようとした時、何者かの気配を感じた。

テレーズ「誰?」

腿のホルスターに差していた拳銃を引き抜きつつ、壁を背にして油断無く身構える。
そして瞬時にドレスから夜間迷彩服(黒の上下)に変わる。
伊達に紛争地域で守護天使をしてはいない。
その時、雲が晴れ、部屋を月明かりが照らす。
テレーズの目に飛び込んできたのは、部屋の中央に佇んでいた、オペラ座の怪人の扮装をした2つの人影であった。
この二人が殺気を纏っていない事に対して怪訝な表情を浮かべるテレーズの前で、2人はシルクハットと仮面をゆっくり外す。その気配にテレーズは、もう一つの可能性に思い当たる。

テレーズ「守護……天使……?」
レオン「ご名答。犬のテレーズ」
サキ「……何故……私達が……派遣……されたのか……理解……してるわね……?」

無論、テレーズは理解していた。また来るべき物が来た、という想いも当然ある。
だがそれでも精一杯の抵抗を試みる。

テレーズ「ご主人様……将軍を助ける為……じゃないわよね?」

そのとぼけた返答に、レオンは一瞬言葉に詰まるが、少々苛立ったような詰問調で言葉を続ける。

レオン「お前には召還命令が着ているはずだ。届いていないとは言わせないぜ」
テレーズ「そ、それはどうかしら?お、覚えがないわ……」
レオン「なら、お前の強制送還が何者かの妨害で中断された……この事をどう説明するつもりだ?」
テレーズ「そ、それは……」
レオン「時間がないから俺から言わせて貰うぞ!
    お前は守護天使としての禁忌を破り、主人と関係を持ち、また主人の非道な行為を
    制止するどころか積極的に荷担した! 本来守護天使は主人が過ちを犯そうとした場合、
    体を張ってでも止めなければならないはずだ!
    あまつさえ、強制送還されそうになると……呪詛悪魔の力を借りて送還を阻止、
    テレポート防止の結界を張った……
    『堕ちた守護天使』と認定するのに十分不自由しない条件だ!」

『堕ちた守護天使』の意味は理解できなかったものの、レオンの一喝が重大な弾劾の意味を含んでいる事は理解できた。自責の念からか、うなだれるテレーズ。
罪の意識はあるようだ。その事に対しサキとレオンは内心ほっとしながら、一転、柔らかい口調で話し掛ける。

サキ「……でも……今からでも……送還に応じれば……」
レオン「ああ、ご主人と再び会う事もできるかもしれん……」

サキとレオンは、天界裁判所で然るべき処分を受ければ、また主人の元に帰還できる可能性がある事、大人しく送還に応じれば情状酌量が認められて、より早く帰還できる可能性がある事、自分達がテレーズになるべく有利になるように証言する……等を語って聞かせ、説得した。
躊躇していたテレーズもサキとレオンに説得され、送還を受け入れる準備をする。
サキは懐から瓶を取り出す。
魔封瓶であった。

サキが蓋を外し、テレーズに瓶の口を向けたその時……
一発の銃声が鳴り響いた。


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