???「ふふふ……さすがだな……」
木の影から、背が高く痩せ型、浅黒い肌で金髪の男が現われた。
雰囲気はレオンに似ていなくも無いが、ずっと陰惨な空気を身に纏っている。
サキも男の正体を一瞬で察し、身構える。
サキ「……呪詛悪魔……!」
呪詛悪魔「それにしても女連れとは良い身分だな……レオン」
レオン「やはり貴様か、ハリー……いや、秘書官殿、と呼んだ方がしっくり来るか?」
皮肉によるレオンの挑発に、一瞬その瞳に怒りの炎が灯ったが、無理矢理鎮める。そして口に出したのは別の事だった。
ハリー「貴様はここに来ると思って網を張っておいたのだが、正解だったな」
サキ「……知り合い……?」
レオン「ああ、俺がかつて所属していたゲリラと敵対関係にあった麻薬組織、そこの伝書鳩だ……」
ハリーを見据え、言葉を続ける。
レオン「そして……この結界を張って、俺達に苦労をさせた張本人だ」
レオン「お前が取り入った将軍の元に行かなくていいのかな?」
ハリー「将軍? ああ、よく働いてくれたよ。俺様の手駒になっているとも知らずに……」
サキ「……?」
ハリー「俺様を殺した麻薬組織……いや俺様だけじゃない、俺様の仲間・親兄弟の仇……
麻薬組織とその支援者の連中を皆殺しにしてくれたのだからな!
それを手始めに、人間どもをよく殺してくれたよ。俺様がほんの少し唆すだけで……くくく……
人間なんて本当に愚かな生き物だ……少し敵愾心と復讐心を煽ってやるだけで……
幾らでも虐殺したのだからな! 守護天使の女の為とかで!」
愉快そうに話すハリーに対し、サキの瞳に怒気を含んだ危険な光が灯る。
だがレオンがそれを制する。
レオン「サキ、こいつは俺に任せて、お前は早く戻れ!」
サキ「……レオン……?」
レオン「本調子ではないお前がいても、足手まといだ」
サキははっとしてレオンの横顔を見る。
レオンはハリーから全く目を離さずにナイフを構えている。
サキ「……そうさせてもらうわ……」
サキは心の中でレオンに礼を言うと、精神を集中させる。
次の瞬間、サキの姿は消えていた。
ハリー「ナイトを気取るつもりか?」
レオン「なに、貴様如き俺1人で充分だ!」
苛立ちを隠せないハリーに対し、レオンは(少なくとも表面上は)余裕の表情を見せていた。
昨日、この国に現われた追跡者がレオンである事を知ったハリーに勝算はあった。また勝算を上げる為、様々な策を巡らした。
その為に将軍の日程を匿名で密告し、A国の軍事介入を容易ならしめたのもハリーであった。
レオンはテレポートが封じられたら、幾つかある国境への道の中で、かつての根拠地・思い出の場所であるここまで移動しようとする事は、容易に想像できた。
首都からここまでの移動で気力体力を消耗させ、そこからゆっくり料理すればいい・・・そう考えていたのである。
だが・・・誤算その1。列車を使った事は想像の埒外であった。よって予想よりずっと早く到着し、トラップも全く仕掛けられなかった。
これがハリーを苛立たせている原因の一つになっていた。
ハリー「ケッ、でかい口叩けるのも今のうちだけだ……」
レオンは予備動作無しで、鋭い突きを繰り出した。
ハリーは半身を捻ってレオンのナイフの奇襲を避ける。が、ハリーの髪が数本舞う。
即座に、レオンに対して蹴りを見舞う。
だが、レオンは咄嗟に屈んでハリーの蹴りを空振りさせていた。
間髪入れずにレオンはハリーの足を狙い、低い姿勢のままナイフを振るう。
ハリーはナイフを逆手に持って、レオンのナイフを阻む。
レオンは続けざまに足払いを繰り出す。
ハリーは小さく飛び退いてかわす。
レオンも間合いを取って体勢を立て直す。
レオン「どうやら、策を巡らすのにかまけて、鍛錬を怠っていたようだな」
嘲笑するようなレオンの台詞に対し、ハリーは無言で強烈な衝撃波を発生させる。
レオンは咄嗟にテレポートで姿を消す。
次の瞬間、ハリーの背後に出現したレオンはハリーの左胸を狙って突きを見舞う。
だが、ハリーはそれを予期していたかのように振り返り、ナイフで受け流す。
思わずたたらを踏んでしまったレオンに対し、渾身のカマイタチと呼ばれる風の刃を撃つ。
決して外す事の無い至近距離……ハリーは半ば勝利を確信した。
だが、風の刃は地面を切り裂いただけで終わった。
再度、レオンはテレポートしたのである。
周囲に舞っていた土煙が収まった時、あたりは静寂に支配されていた。
ハリー「チッ、味なマネを……」
二人の撒き散らす殺気と破壊に、森の動物達も恐れをなしたのか、付近にその気配は全く無い。
ただ、木々のざわめきが聞こえるのみであった。
ハリー「何処だ? 何処から来る?」
そうつぶやいた次の瞬間、銃声と共に背中の左胸に焼けつくような痛みを感じていた。
レオンがハリーの背後の木の陰から拳銃を手にして現われる。
テレポート封じの結界の中から……