死の先に在るモノ

第4話「護衛者」(ガーディアン)

ロードのヨロイの残骸があった場所から、細かい・・・多数の光の粒のようなものが湧き出す。
それらはサキにまとわりついてきた。
救いを求めるように・・・嘆くように・・・怒るように・・・

サキ「・・・魂の束縛は終(つい)えた・・・この場に留まる理(ことわり)はもうないわ・・・」

サキが静かに語りかけると、光の粒は・・・さ迷える魂達は、天へと昇って行き・・・消えて行った。

サキ「・・・迷える魂に・・・救いあらんことを・・・」

鎮魂の祈りを捧げたサキはゆっくりと剣を下ろす。

その瞬間、守護方陣が解かる。
13人は足に変に力が入っていたのか、ばらばらとつんのめったり、尻餅をついたりして倒れこむ。
同時に「メイド服」から普段着へと戻る。

みか「助かった・・・の・・・?」

放心したような、みかの一言が引き金になったのか、るるとももの目に大粒の涙が溢れ出す。

るる「う、うう、うわ〜〜〜ん!!怖かったお〜う!!」
もも「う、ひっく、うう、ひっく・・・怖かった・・・」

生まれて、あるいは転生して初めて体験するリアルな死の顎(あざと)の恐怖から逃れ、張り詰めていた緊張の糸が切れたのか、主人の青年に抱き着いて泣き叫ぶるるともも。
それをあやそうと必死になるゆきと青年。
他は皆、ショックから、呆然とへたり込んでいる。
ただあゆみだけは、座り込みながらも、やや険しい、しかしそれでいて悲しそうな視線をサキに送っていた。

レオンは懐から取り出した針金の輪をサキの頭に乗せる。
輪は柔らかい光を発し、サキの額から後頭部へと覆っていく。
次の瞬間、鎖を模した装飾のサークレット、封冠グレイプニールになっていた。
サキの眼光が、次第に穏やかになって行く・・・
それと共に背中の深紅の羽も消えていく・・・

サキ「・・・」

あゆみが意を決したようにサキとレオンに歩み寄り、問いかける。

あゆみ「助けて頂いた事は感謝いたしますわ」
レオン「これも仕事だからな」

疲れたようなレオンの返答に、あゆみは固い表情を崩さずに言葉を続ける。

あゆみ「サキ・・・さん、でしたわね。『紅き死神』と呼ばれている・・・」
サキ・レオン「!!」

驚いた表情で固まる2人。その反応が見事正解である事を物語っていた。

あゆみ「やはりそうでしたか・・・あなたの深紅の羽を見た時、もしやと思ったのですが・・・
     ・・・あら?どうしたのですか、サキさん?随分とお顔の色が・・・え?」

サキは立ったまま、力尽きたかのように倒れ込む。レオンは鉄パイプを放り出し、慌てて抱きかかえた。

レオン「紅い羽の意味、君も知っているだろう?」
あゆみ「ええ・・・罪を犯した守護天使の羽は紅く染まる・・・でしたわね。
    2級以上の者しか知りませんが・・・」

レオン「できれば、隠して欲しい。あそこにいる娘達の為に、な?」

確かにそんな事を知ったら、らん・つばさ・くるみといったサキの教え子達だけでなく、小学生以下の年少組も大きなショックを受けるであろう。あゆみは疲労のあまり、その事をつい失念していたらしい。

あゆみ「そうですわね・・・わかりましたわ・・・わたくしからゆきさんに言っておきますわ」
レオン「助かる」
あゆみ「ところで・・・申し訳ございませんわ!
    わたくしが余計な事を言ってしまって・・・サキさんが倒れてしまって・・・」
レオン「いや、君が気に病む事は無い。サキが真の力を解放すると必ずこうなるんだ」

謝罪するあゆみに対してレオンはやや苦笑気味に答える。

あゆみ「そうでしたか・・・わたくしも考え無しに言ってしまって・・・」

あゆみはややほっとした様に言う。
と、その時、放心状態から復帰したらん達が駆け寄って来た。そしてぐったりとしたサキを見て驚く。

つばさ「教官!!」
レオン「大丈夫だ。疲労で気を失っているだけだ」
らん「力を使い果たして・・・教官・・・らん達の為に・・・」

感極まって、涙を流さんばかりのらんに対し、たまみは現実的な質問をレオンにぶつける。

たまみ「それはそうと、たまみ達はいつ出られるの?」
レオン「そろそろだな・・・」

丁度その時、結界が淡い光を発し、鮮やかな夕焼けが辺りを照らす。
結界が消えたようだ。
レオンはサキを両手で抱きかかえ(いわゆる”お姫様だっこ”という状態である)

レオン「俺達は天界に戻らなきゃならん。すまんがここから君達の家までは歩いて帰ってくれ」
青年「いや、助けてくれただけで十分ですよ。あなた方もお元気で」
つばさ「あ、あの・・・教官に伝えてください!
    『ご主人様とボク達を助けてくれて、ありがとう!』って」
レオン「ああ、伝えておくよ」

レオンは微笑むと、テレポートで姿を消す。

らん「行ってしまいましたね・・・」

ゆき達は名残惜しげにレオンがいた場所を見つめる。
一方で、るるとももは泣き疲れたのか、そしてななも疲れたのか、青年やゆきに抱き
着いて眠ってしまっている。
また、他の全員も疲労の色を隠せなかった。
青年がもも、ゆきがるる、みかがななをそれぞれ背負い、疲れを振り払うかのように
努めて明るく呼びかける。

青年「もう安心だね。さあ、家に帰ろう!!」


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