この作品では、守護天使と呪詛悪魔の殺し合いが描かれます.
そういう話が嫌いな方はご覧にならないことをお勧めします。
また、事前にこちらのページで呪詛悪魔とは何か、について知っておくことと、
本作の主人公である「カンディルのカンディード」のプロフィールを確認されておくことをお勧めします。
——人の住む町中から離れた郊外に忘れ去られたようにぽつんと建つ廃工場。
辺りの土地も何の整備もされていない。かろうじて舗装された道路が伸びてはいるものの、ところどころひび割れ、伸び放題の草にその縁は浸食されてきている。
むろんかつてはそうではなかったが、かなり以前に工場としての働きを終え、働いていた人々は立ち去り、中にあった機械類もいずこかへ移動された。だが、建物じたいはなぜか取り壊されることなくうち捨てられ、巨大ながらんどうとしてあとに残ったままになっていたのである。
その工場跡を、探っていた。
見ていたのではない。
眼は瞑り、やや俯いてじっとしている。そのさまは、聞こえない音に聞き入っているかのようでもある。
(・・・13・・・19・・・26・・・)
無人と化したはずの廃工場。だが、何者もそこにいないというわけではなかった。確かに、人——人間は誰もいなかったが、代わりに、いつのまにか巣喰っている者たちが存在した。
呪詛悪魔——人間に恨みを抱いて死に至った動物たちの魂がその恨みを晴らさんものと人の姿を象り、転生した者たち。生前人間から受けた恩義を返すため、死後その人物のもとへと転生してくる守護天使とは、まさに対局にある存在。
そういう者たちが今、その建物の中にはいたのだった。
その様子を目で見ることもなく、別の感覚で捉えている。
(32人。ここにはもっといたはずだが——3分の1ほどがいない。どこかに出ているのか)
いや、総数は結局は関係がない。問題なのは、役に立ちそうなほどの力の持ち主は何人いるかということだった。
(4人、というところか・・・)
おそらくこれでは足りない。他を当たるべきか・・・?
(—— いや、これは・・・)
一つしかない目を開き、顔を上げる。これならば・・・試してみる意味はある。
次の瞬間には、工場の扉の前に立っていた。
ろくな手入れをされず銹つき、そうでなくても重い鉄の扉がなぜか、軋む音すら立てずすんなり開く。
中にいる者達は呪詛悪魔。本来、魔界の住人である。しかし、誰一人気づかなかったが、その者たちにとっての真の地獄への入口は、実にこの時開いたのであった。
外からの明かりを背にして立つその姿はすらりと背が高いが、取り立てて変わったところがあるようには見えない。
が、扉の近くにいた者達は、一斉にそちらへと目をやった。一瞬で空気が変わったのだ。何か異質な、悪魔と呼ばれる彼らにして、ぞくりとするようなこのうえなく危険なものを感じて。
その人影は内部へゆっくりと、しかし、何のためらいもなく足を踏み入れてきた。
そして、声が聞こえた。特に大きな声でなく、叫んでもいない。だが、中の全員の耳に——建物のずっと奥にいた者たちにすら——それは届いた。淡々とした調子とは、あまりにもかけ離れた内容の言葉。
それは、一方的な宣告。いかなる疑問も反論もいっさい認めぬ、理不尽この上ない宣言——
「ここにいる、呪詛悪魔ども。今から貴様たち全員を始末する」
そしてまた、続く言葉がさらに普通ではあり得なかった。
「——抵抗しろ」