死の先に在るモノ

第7話「復讐者」(アヴェンジャー)≪前編≫

>現在

俺の名はレオン。
前世は鳩。
南米ラグリア国の反政府ゲリラに飼われていた伝書鳩だった守護天使……
今は、人知れず「堕ちた守護天使」を狩る裏の実行部隊、「特務機関フェンリル」のメンバーだ。
俺がサキと出会ったのはその任務として……まあ、セリーナに……デッドエンジェルとなったサキを「捕獲」する任務に連れ出されたからだった……成り行き上、半ば強引にだったが……
思えば俺はあの時初めて血生臭い現場……いや、文字通りの修羅場を見たんだ。あの衝撃は今でも忘れられん。
何しろその時以来、赤い飲み物が……赤ワインやトマトジュースといった物が苦手になってしまったくらいだからな。だが……あの出会い・衝撃があったから、いや……その衝撃が初めてだったからこそ、サキとの関係も続いているんだと思う。
なにしろ、無気力に近い状態になっていた俺が本気で……こいつの為に何とかしてやりたい、と思ったんだからな。

 

第七話「復讐者」(アヴェンジャー)≪前編≫

 

>4年前
役所の世界、天界裁判所地下の留置所取調室、そこに意識を失った一人の女性が横たえられ、数人の男女が彼女を囲むように佇んでいた。
その女性を取り調べる為そこにいたのは、俺と俺の上司であるセリーナ、天界裁判所の心理調査官のディアナと裁判所書記官、そして護衛役の警備官2名の計6人。
セリーナが居たのは彼女を捕獲した責任者として、俺がここに居たのは彼女の担当官としてだった。
何と言うか……ドサクサに紛れ、彼女の担当官にされてしまったんだ。
何故俺が彼女の担当に任命されていたのか、この時は理解出来なったが。
しかし『あの時』の衝撃が冷めやらなかった俺は、セリーナを問い詰める事すら忘れていた。
今思えば、恐らく無気力に過ごしてきた俺に対し、発奮材料にして欲しいという考えだったのだろうな。それがセリーナなりの思い遣りだったのだろう。
まあ、問い詰めてもセリーナは笑うだけで何も語らなかったから、それが正解だと思うが。

俺は拘束台に横たえられた女性を、この時になってようやくじっくり観察する余裕が生まれた。
……今までは『あの時』の惨状の記憶で頭が一杯で、自分の感情を整えるのに手一杯だった。
……情け無い話だが。
身長は女性にしてはやや高い方である169cm、整った顔付き、均整の取れた体、すらりと伸びた四肢、ショートの銀髪……意識を失っていてもその美貌は損なわれてはいなかった。

だが、その額に金属製の鎖を模した装飾のサークレットが填められていた。封冠だった。
力を大幅に制限する封冠に加えて、さらに手枷と足枷、首枷がされ、拘束台に固定されていた。
この扱いがこの女性の現在の立場を表していた。

「この人が、ですか……」

職業柄、様々な者に接する機会があるのだろう。
セリーナが差し出した令状を読むディアナという天界裁判所所属の心理調査官の声は悲しげだった。
その言葉に触発されるように、俺の記憶に蘇って来た。
この女性『白鷺のサキ』を捕獲しに人間界に降りたその時の情景が……

 


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