死の先に在るモノ

第4話「護衛者」(ガーディアン)

荒地の中央付近の空間の見え方がおかしくなったように感じた。
一瞬気のせいかとも思ったが、次第に空間が歪み、何かが出現しようとしている。

レオン「なるほど、魔神レベル1・・・奴が冥府の闇の貴族(ロード)か・・・
    確かに、D.F.程度では手に負えんか・・・」

そう語るレオンも緊張の為か、声がかすれていた。
 
まだ、完全に姿が現れていない段階で、サキが仕掛けた。
サキはバスタードソードを両手で構え、大上段から斬撃を見舞う。
だが、澄んだ金属音と共に剣は弾かれ、サキは僅かに顔をしかめる。

???『ふふふ・・・そう焦るな・・・』

底冷えのする声とはこのような物を言うのだろう。
13人はあまりの恐怖感に凍りつく。
守護方陣を組んでいなければ、一瞬で気絶してしまいかねない・・・そのくらいの迫力であった。
ここに至って、ようやくサキの『足手まとい』という言葉が持つ意味を実感したのである。
と、同時に幾つもの、文字通りの修羅場を潜り抜けて来た(と思われる)神格者・大天使の実力の片鱗を見せられたような気がした。
 
姿を現した「それ」は身の丈が2メートル程、
夜の闇よりも濃い漆黒の鎧で身を包み、巨大な楯と馬上槍(ランス)を持った屈強な偉丈夫であった。
サキは重圧を跳ね除け「それ」に呼びかける。

サキ「・・・闇のロードよ・・・ここはあなたの来るべき場所ではない・・・」
ロード『先刻承知のうえよ!・・・ただ喉が渇いてな・・・』
サキ「・・・喉・・・?」
ロード『おうよ!守護天使の主となる程の高潔な魂!なんと美味なことか!』
レオン「な!?よもや・・・貴様・・・!」

守護方陣の中の13人には、それがどういう意味なのか解らなかった。いや、少なくとも中級守護天使以上は理性では理解できていた。だが余りにも衝撃的な事実・・・
それを認める事を感情が拒んでいた。

サキ「・・・一つ聞くわ・・・ナミのご主人を・・・事故に遭わせたのは・・・?!」
ロード『うむ?・・・ああ、あの魂か、なかなか美味であったぞ。
   おっと、勘違いするな。奴の死には我は関わってはおらんぞ』
サキ「・・・そう・・・どちらにしても・・・
   ・・・魂を汚した者には・・・死すら生ぬるいわ・・・
   ・・・滅びなさい!!・・・咎人よ・・・!!」
ロード『ふははは、貴様ら下級神ごときが、我を倒す事などできるものか!』
 
睨み合うサキ・レオンと闇のロード。最初に動いたのは闇のロードであった。

ロード『ふん、こんなのはどうかな・・・?』

闇のロードは何やら唱える。すると地面から湧き出すように出現したのは・・・
あまりの光景に、一瞬、金縛り状態が解ける。

みか「な、なな、なに、コレェ〜」
ゆき「そ、そんな・・・」

数十体の骸骨兵士であった。結界内のあらゆる場所からわらわらと出現する。
 
ロード『守護天使どもを始末しろ』

守護方陣の目前に出現した骸骨兵士の一体があゆみに向かって剣を振り下ろす。

レオン「クッ!!」

レオンはナイフの柄を用いて、自身の目の前の骸骨兵士の頭を砕く。するとばらばらになって崩れ落ちる。
が、救援には間に合いそうに無い。

あゆみ「い、いやぁぁぁぁぁ!!」

ところが、骸骨兵士の持つ剣は、鈍い音と共に守護方陣に阻まれて止まる。
と、その骸骨兵士は小さく震えたかと思うと、そのまま細かい砂粒と化し、地面に吸い込まれて消えしまった。
ゆき達は足を動かせない、闇のロードの重圧感、骸骨兵士、という3重の恐怖に駆られ、またあまりの非現実的な光景に、声も出せない。
 
レオン「怖がる必要は無い!これは奴が土塊をそれらしい形にして操っているだけだ!
  それにこの程度では守護方陣を破ることは決して、できはしない!」

しかしあまりにも数が多い。

レオン「ちっ!こいつらの精神衛生の為には、俺が片をつけるしかないか・・・」

骸骨兵士の剣は体の一部なのであった。その為、剣が守護方陣に触れただけでも、その『仮初めの命』は消滅してしまう。
だが、実害がないとはいえ、放っておく事は出来ない。
サキのサポートは断念し、守護方陣の護衛に専念する決意をする。

サキは骸骨兵士が出現すると同時にロードに向かって突進していた。
間に骸骨兵士が何体か立ち塞がるが、剣を一閃させただけで数体をバラバラにする。
サキは僅か数秒でロードに近づき、剣を袈裟切りに薙ぐ。
ロードはサキの攻撃を大きく後ろに飛び退いてかわす。
見ると強力な守護方陣により傀儡(くぐつ)の一体が消滅していた。
ロードは驚いたように命令を変更する。

ロード『なに?エンジェルサークルか?ふん、ならばその男を殺れ!』

その声に骸骨兵士たちは一斉にレオンに向かっていく。
その機敏とは言えない動きに、ニヤッと笑うレオン。

レオン「ふん、傀儡が・・・」

傀儡はばらばらにするか、頭部を砕くかしないと動きを止める事は出来ない。
この場合、レンジの狭いナイフでは有効な打撃を与えるのは難しい。
レオンは、付近に落ちていた1m程の鉄パイプを拾い上げる。
しつじの世界有数の素早さを持つレオンには、この状況こそ願ったり叶ったりであった。

サキは再度間合いを詰めると突きを繰り出す。が甲高い音と共に楯で防がれる。
楯の影から凄まじい速さで、ランスによる突きが繰り出される。
間一髪でサキは避け、バランスを崩しながらも剣を振るう。
しかし再度楯に阻まれる。と、ロードは楯その物を突き出して体当たりしてきた。
思わず意表をつかれ、反応がコンマ0数秒程、遅れた。
咄嗟に紙一重でかわすが、そこにはロードの振り回したランスが待っていた。
そのランスの腹で腹部を殴打され吹き飛ばされる。

サキ「がはっ!」

どうにか空中で姿勢を整え、着地した。
が、腹部を押さえて思わず片膝をつく。
元々打たれ弱いサキである。ダメージは意外に大きい。

らん「教官が・・・そ、そんな・・・」
つばさ「あそこまで・・・追い込まれるなんて・・・」

絶望しかける、らんとつばさをゆきが叱咤する。

ゆき「落ちついて!二人とも・・・まだ、あの人が負けた訳ではないでしょう?」

らんとつばさは、はっとした表情になる。

ゆき「なら・・・信じましょう・・・あなた達の教官を・・・」
らん・つばさ「「は、はい!」」

その叱咤にらん・つばさは気を持ち直し、方陣の維持に魔力を集中させる。
最悪の展開の想像を振り払うかのように・・・

 

サキは、何か・・・覚悟を決めたようにつぶやく。

サキ「・・・やはり・・・無理みたいね・・・」
ロード『ようやく観念したか!』
サキ「・・・神格者としての・・・大天使の力を解放せずに勝つのは・・・」
ロード『何?ふん!戯言を!』
サキ「・・・できれば・・・解放したくは・・・なかったけれど・・・」

サキは余裕の表情を浮かべるロードから、一旦飛び退き間合いをとる。そして力を集中させた。


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