街に煌煌と月光が降り注いでいる・・・満月である。
既に日付が変わり、歩道の会社帰りのサラリーマンの姿もまばらになってきている。
小規模なオフィスビルが多数ひしめく、その交差点に一台の4トントラックが走ってくる。
そのトラックが突然、蛇行運転を始めた。
運転手「な、なんだ!?ハンドルが・・・利かねえ!ど、どうなってやがるんだ!?」
運転手はとっさにブレーキを強く踏む。しかしスリップしながらトラックは立ち木に衝突する。
運転手「っくう!!・・・なんとか俺は無事のようだな・・・なんとか・・・」
額から血を流した運転手が、必死に這い出す。
這い出した直後、トラックは炎上する。
運転手「!!な、なんでだ・・・・・・なぜだ!?」
ディーゼル燃料(軽油)はガソリンほど簡単には火が付かない。
少し燃料が漏れていたとはいえ、この火の廻りは異常であった。
運転手「本当だ!運転していたら、突然ハンドルが利かなくなって・・・」
すでにレッカー車が到着し、トラックの残骸の撤去が始まり、
警官による交通整理も一段落ついた所のようだ。
事故(?)直後に大勢集まっていた野次馬も、少なくなっていた。
運転手は警察車両(ワゴン車)の中で、警官2人から事情聴取を受けていた。
本来なら「車が勝手に蛇行運転した」などという事を主張しても、一笑に付されるだけであろう。
だが、この時の警官の目は「またか」と「厄介な事になりそうだ」という感情があった。
警官「事件・事故、どちらにしても調書作らなきゃいけないんで、このままご同行願えますか?」
運転手「わかったよ。ったく!なんで俺がこんな目に・・・」
この運転手は自分程の不幸な男はそういない思っていた。
しかし違っていた。全く同じ状況に陥っている者は、もうすでに7人もいたのである。
そして、人間は知らなかった。
現場を見下ろすビルの屋上にて、怪しげな3つの影が一部始終を見ていた事を・・・。
怪しげな影は15,6の少女、中年の小男、壮年の大男の姿をしていた。
その少女が、忌々しげに舌打ちをする。
少女「ちっ、またハズレか!」
小男「焦ってはいけませんよ、焦っては良い結果がでませんよ」
少女「あ、ああ、そうだな・・・」
大男「しかし、次はどうする?まだここで・・・」
サキ「・・・次はないわ・・・」
その声に、3人は弾かれたように振り返る。