既に日が落ち、夕日が最後の残照を投げかけている。
人気のない松林の外れに、先程の守護天使が出現する。
???「サキ!」
地上に戻った守護天使に一人の男性守護天使が声をかけてきた。
サキと呼ばれた守護天使から、張り詰めていた殺気が消える。
サキ「レオン・・・今回の呪詛悪魔は・・・魔獣レベル9あたり・・・
・・・そして、その元凶となった人間・・・共に『消去』(イレイズ)に成功・・・
・・・任務完了・・・かしら・・・?」
レオンと呼ばれた男性守護天使、表向きはPETSの世界と人間界とを行き来するメッセンジャーである。
しかしその実態は、特務機関フェンリルの諜報部員でもあり、サキの補佐官である。
サキが特務機関に所属となって以来、パートナーとして共に戦ってきている。
今回の『消去』(イレイズ)の任務でも、この場所を突き止めたのはレオンであった。
レオン「ああ、任務完了だ。
だが、呪詛悪魔は転生の環に還せたようだが・・・
あの人間の、性根の腐り具合からすると、
どうも怨霊にでもなりそうなカンジじゃねぇか?」
サキ「・・・それは、私達が気に病むことではないわ・・・
・・・人間のことは人間に任せるべきじゃないかな・・・」
レオン「やれやれ、相変わらずだな」
そう言うとレオンは微笑んだ。
レオン「しっかし、さすがはサキだよな!
魔獣レベル9といえば1級守護天使に匹敵する存在だろう?
それを封冠をつけたままで、手も無くひねるなんてな!
あ、ワリィ、お前の気持ちを知っていながら・・・」
サキ「・・・気にしていないわ・・・」
魔獣レベルとは、守護天使達への敵対者の力量のコードネームである。
魔蟲が10級〜6級の守護天使に相当、魔獣が5級〜1級の守護天使に相当、
魔王が10級〜6級神に相当、魔神が5級〜1級神に相当する。
例えば、魔獣レベル3だと4級守護天使に相当、という具合だ。
封冠とは、特務機関フェンリルのメンバーであることを示す、
鎖を模した装飾のサークレットである。公にはグレイプニールと呼ばれている。
(グレイプニールとは北欧神話の魔狼フェンリルを繋いでいた鎖のことである)
様々な機能があるらしいが、詳細は極秘指定となっている。
・・・閑話休題。
バツが悪そうにしていたレオンは、思い出したようにサキに伝言を告げる。
レオン「ああ、そうだ、ムサ婆さまから伝言があったんだ。
”久々に見習たちに稽古をつけてほしい”ってことだ」
サキ「・・・分かったわ・・・”直ちに召致に応じる”と
・・・そう伝えておいて・・・」
レオン「了解!じゃあな!!」
そう言うとレオンはテレポートして消えた。どうやら、しつじの世界に戻ったようだ。
一人残ったサキは、小さくつぶやく。
サキ「・・・こんな力・・・いいえ・・・
・・・この力、もっと早く欲しかったな・・・」
相変わらずの無表情であったが、その瞳は深い悲しみに彩られていた。
サキは無感情・無表情と評価されている。
それはサキが常に感情を圧殺し続けた結果であった。
だが、その事実を知るものは、ごく限られた者しか存在しない。
本人すら自分の本当の気持ちには気付いていなかった・・・
第二話「教育者」(インストラクター)へ続く