死の先に在るモノ

第1話「消去者」(イレイザー)

既に日が落ち、夕日が最後の残照を投げかけている。
人気のない松林の外れに、先程の守護天使が出現する。

???「サキ!」

地上に戻った守護天使に一人の男性守護天使が声をかけてきた。
サキと呼ばれた守護天使から、張り詰めていた殺気が消える。

サキ「レオン・・・今回の呪詛悪魔は・・・魔獣レベル9あたり・・・
   ・・・そして、その元凶となった人間・・・共に『消去』(イレイズ)に成功・・・
   ・・・任務完了・・・かしら・・・?」

レオンと呼ばれた男性守護天使、表向きはPETSの世界と人間界とを行き来するメッセンジャーである。
しかしその実態は、特務機関フェンリルの諜報部員でもあり、サキの補佐官である。
サキが特務機関に所属となって以来、パートナーとして共に戦ってきている。
今回の『消去』(イレイズ)の任務でも、この場所を突き止めたのはレオンであった。

レオン「ああ、任務完了だ。
    だが、呪詛悪魔は転生の環に還せたようだが・・・
    あの人間の、性根の腐り具合からすると、
    どうも怨霊にでもなりそうなカンジじゃねぇか?」
サキ「・・・それは、私達が気に病むことではないわ・・・
   ・・・人間のことは人間に任せるべきじゃないかな・・・」
レオン「やれやれ、相変わらずだな」

そう言うとレオンは微笑んだ。

レオン「しっかし、さすがはサキだよな!
    魔獣レベル9といえば1級守護天使に匹敵する存在だろう?
    それを封冠をつけたままで、手も無くひねるなんてな!
    あ、ワリィ、お前の気持ちを知っていながら・・・」
サキ「・・・気にしていないわ・・・」

魔獣レベルとは、守護天使達への敵対者の力量のコードネームである。
魔蟲が10級〜6級の守護天使に相当、魔獣が5級〜1級の守護天使に相当、
魔王が10級〜6級神に相当、魔神が5級〜1級神に相当する。
例えば、魔獣レベル3だと4級守護天使に相当、という具合だ。
封冠とは、特務機関フェンリルのメンバーであることを示す、
鎖を模した装飾のサークレットである。公にはグレイプニールと呼ばれている。
(グレイプニールとは北欧神話の魔狼フェンリルを繋いでいた鎖のことである)
様々な機能があるらしいが、詳細は極秘指定となっている。
・・・閑話休題。

バツが悪そうにしていたレオンは、思い出したようにサキに伝言を告げる。

レオン「ああ、そうだ、ムサ婆さまから伝言があったんだ。
    ”久々に見習たちに稽古をつけてほしい”ってことだ」
サキ「・・・分かったわ・・・”直ちに召致に応じる”と
   ・・・そう伝えておいて・・・」
レオン「了解!じゃあな!!」

そう言うとレオンはテレポートして消えた。どうやら、しつじの世界に戻ったようだ。
一人残ったサキは、小さくつぶやく。

サキ「・・・こんな力・・・いいえ・・・
   ・・・この力、もっと早く欲しかったな・・・」

相変わらずの無表情であったが、その瞳は深い悲しみに彩られていた。
サキは無感情・無表情と評価されている。
それはサキが常に感情を圧殺し続けた結果であった。
だが、その事実を知るものは、ごく限られた者しか存在しない。
本人すら自分の本当の気持ちには気付いていなかった・・・

第二話「教育者」(インストラクター)へ続く


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