男「う、うわぁっ!!く、くるな、悪魔め!!」
20代後半くらいと思われる男が、尻餅をつきながらも後退りする。
凄惨な薄笑いを浮かべる女性から何とかして逃げようとしている。
呪詛悪魔「ふふふ・・・悪魔はあなたも、でしょう?
あの世とやらで悔い改めなさい・・・」
悪魔と呼ばれた女性は復讐の快感に陶酔したように男を見下ろし、ゆっくりと歩を進める。
薄暗い洞窟の中に隙間からわずかに覗く夕日の光が呪詛悪魔の顔を照らす。
それがより一層、酷薄さを強調させていた。
呪詛悪魔の女は手のひらに魔力を集中させる。
呪詛悪魔「死になさい!!」
???「させない!!」
呪詛悪魔の手に出現した魔力弾が放たれる。
と、ほぼ同時に呪詛悪魔と男の間に一人の女性が出現、剣で魔力弾を弾き飛ばす。
魔力弾は洞窟の天井にぶつかり、轟音を立てて炸裂する。
岩盤のかけらが爆風と共に3人に降り注ぐ。
男「ひ、ひぃぃ!」
男は恥も外聞もなく必死に這って遠ざかる。
呪詛悪魔「なに!?貴様、邪魔立てするつもりか!?
!!・・・そうか、貴様、守護天使だな!!」
守護天使「・・・・・・」
それまで、復讐に酔っていた呪詛悪魔の女性の顔が強烈な憎悪に歪む。
それまでの余裕のある優雅な物腰からは考えられない程の、変貌ぶりであった。
一方で守護天使と呼ばれた女性は、右手で剣を構えたまま全く微動だにしない。
表情も変わらず、無表情のままであった。
それが余計に呪詛悪魔の気分を苛立たせた。
呪詛悪魔「ならばその男と共にくたばるがいいわぁ!!」
呪詛悪魔は先程とは比較にならない程の、全魔力を集中させた。
そしてバスケットボール程の大きさになった魔力弾を、渾身の力を込めて2人に投げつける。
呪詛悪魔「死ねぇぇぇ!!」
しかし守護天使は呪詛悪魔の渾身の魔力弾を、左手だけで受け止める。
そのまま消滅させ、難なく無効化する。
呪詛悪魔「な、なんだと!?」
守護天使は呪詛悪魔が動揺した一瞬のうちに間合いを詰めると、剣で呪詛悪魔の胸を貫く。
呪詛悪魔「うぅ!こ、こんな、とこ、ろ、で・・・ぐはぁぁぁ!!」
呪詛悪魔は光の粒となって、消えていった・・・
守護天使は剣を下ろし、報われぬ魂に祈りを捧げる。
守護天使「・・・迷える魂に・・・救いあらんことを・・・」
男「お、おい!一体何だったんだ?こんな洞窟にいきなりつれこまれて・・・」
今まで洞窟の隅で震えていた事を隠すかのように、男は尊大な口調で話し掛けてきた。
守護天使「・・・彼女は呪詛悪魔・・・
人間に恨みを持って死んでいった動物が転生した者・・・」
男は一瞬呆気にとられ、続いて馬鹿にしたように守護天使に話し掛ける。
男「けっ、動物が人間様を殺すだと!?
そんな動物なんか死んであたりまえだぜ!!
おとなしく殺されていりゃあいいんだ。
おい、お前!!さっさとこんな洞窟から出せ!」
守護天使が男を見据える瞳は非常に冷たいものであったが、
男は全く気付いていなかった。
守護天使「・・・思い上がらないで・・・
・・・私が彼女を浄化したのは・・・彼女が殺人を犯す前に・・・
・・・輪廻転生の環に還すため・・・」
男「テメエ!!そんなこたぁ聞いてねぇ!!
ワケわかんねえことほざくな!!
ブッ殺すぞ!!」
この男には守護天使の言っていることの10分の1も理解できなかった。
ただ女が自分に逆らった、という事に逆上していた。
守護天使「・・・これ以上の犠牲を出す訳にはいかないから・・・」
守護天使は男に向けて剣を構える。
男「お、おい、な、なんのマネだ、お、俺は○○県議会議員の・・・」
守護天使「・・・あの呪詛悪魔は・・・あなたが以前・・・意味も無く撲殺した・・・
・・・アオダイショウの生まれ変わり・・・
・・・あなたは数多くの罪無き命を奪い・・・哀れな復讐者を多数産み出した・・・
・・・悲劇の元凶・・・断たせてもらうわ・・・!」
男「ま、待て!俺には暴力団の組長に知り合いが・・・」
守護天使「・・・あなたは・・・他人の力に頼る事しかできないの・・・?」
守護天使の口調は哀れみを帯びていた。
『虎の威を借りる狐』・・・キツネには気の毒だが、そんな言葉が守護天使の脳裏に浮かんだ。
男「な・・・!ぐ、ぐばごぉぉぉ・・・」
守護天使の剣が男の左胸に突き立てられる。それは正確に心臓を貫いていた。
男は驚愕と怒りの表情のまま息絶えた・・・。
守護天使は、男を苦しませながら殺す事もできた。
しかし、一撃で止めをさした。それは彼女なりの慈悲だった。
ただ、相変わらずの無表情であったが、男の死体を見下ろす視線は・・・
嫌悪と憎悪、そして侮蔑の情に満ちていた。
守護天使「・・・あなたに・・・救いなど必要ないわ・・・
・・・私の名は白鷺のサキ・・・特務機関フェンリルのメンバー・・・
・・・来世(らいせ)でも・・・覚えておきなさい・・・」
そう言い残すと、サキはその場から姿を消した。
男の死体を残して・・・。