(ちょっと、遅れたわね)
クリムはパーティ会場へと急いでいた。前の仕事が思ったより長引いたため、宿舎の自分の部屋には戻らず、守護天使の能力で服装だけ紫のドレスに変え、手早く身だしなみを整えると、そのまま、会場へ直行したのである。
パーティ開始の時間は過ぎてしまったとはいえ、それほど、大幅に遅れたわけではない。本来なら、ここまであわてる必要もなかったのであるが、セリーナと交わした会話の最後のずれ具合が気にかかっていた。
まさかとはおもうが――いかに天神会という世間から断絶された環境で純粋培養されて浮世離れしていようが、記憶喪失とともに感情のおおかたもまた失くしていようが、仮にも18にもなる娘がよもやいくら何でも、そんなことは考えられないが・・・。
しかし、それでも、一抹の不安が残る。
そして、パーティ会場に到着したクリムは、入った途端、その一画に異様な空気がわだかまっているのを感じた。
まだよく事態はわからないが、彼女の直感に訴えてくるモノがある。さらに早足で、そちらへと歩を運ぶ。
守護天使達の本来の正装はめいど服等の天使服ということになろうが、そういう姿での集まりはもっと儀式めいた場でのことであり、この集まりのごとき人間界の公式のパーティの形式を採った宴では、服装もそれに会わせて男はタキシード、女はクリム自身もそうであるようにイブニングドレス姿がほとんどである。
そうした男女がかなりの人数、何となく集まっている。ある地点を取り囲むように――しかし、やや遠巻きにして。その輪の中心に、はたして問題の少女がいた。直接顔を合わせたのは、一度しかなく、それもごく短い時間であったのだが、それでも、ひと目でそれとわかった・・・いや、まちがえようもない。
蠍のクリムゾンは、一瞬めまいを覚えた。
(巫女装束――!)
だが同時に、これ以上ないほど納得もする。
(そりゃあね・・・この子にとっては、これがいちばんちゃんとした格好なんだろうけど・・・)
・・・これが蠍のクリムゾンとイタチのアズマの再会であった。