陰は闇中すら舞い踊る

陰は闇中すら舞い踊る

 彼女がめいどの世界を離れたのはそれから3〜4時間の後だった。 顕われたのはとある路地裏、彼女の後ろを数十名の影が連なっていてその光景は島国日本に似つかわしくない。
 彼女が振り返り影を見回す。 その光景に慣れ親しんでいるのか、特に何をするでもなく自然と口を開く。

「各自作戦プランは理解したな。なに、不安がることはない。  いつも通りだ、世界の秩序を護る為我々は最善を尽くす」

 フゥッと一息吐いて、彼女の演説とも取れる号令は続けられた。

「これより諸君らの命は私が預かった、だから、死なないこと。 総員準備、決行は15分後とする」

 一同がその号令で動き出した、勿論の事彼女も状況を見渡せる位置に陣取るべく廃ビルの屋上へと向かって何事もなく辿り着いた。
 眼下に広がるのは明かりの消えぬ不夜城、人々の営み。彼女の誤判断一つで全体が最悪犠牲になる事例も有るだけに緊張して然るべきところであるが、彼女は落ち着いて景色を眺めていた。
双眼鏡を手に取り確認した。 視線は疎らな人並みの中からある2つの人影を捕らえその後ろの『影』を見て、また人影に戻された。

「シェイド殿、A班部隊配置完了致しました。 いつでもどうぞ」
「B班配置完了」「C班、準備完了」「D班OKです」

 レシーバーから続々と聞こえる報告を確認しては、顎に手を当て何かを思案したのかレシーバーへと言葉を発した。

「総員に告ぐ、どうやらこの現場にも『狼』が1匹出張っているようだ。 暢気に見とは我々も随分と舐められたな」

 コートが強く建物を抜ける風に棚引く、その中で慄然としている彼女は忌々しげに空を一瞥して再び指示を飛ばした。

「報告より今回の目標は理由は何であれ理性が残っていると思われる。 よって作戦はAを使う」

 眼下で複数の影が動く、準備はその一瞬で十分と彼女は判断したのか 間髪入れずに次の言葉を紡ぐ。

「傲慢な『狼』に見せてやろう、我々の正義を。 作戦開始」

 ダダダダダダダダッと裏路地を駆ける複数の人影を眼科に据えたまま、彼女がポンッと地を蹴り隣のビルへ移るとほぼ同時にタタタタタッ、と最小限の音が階下でした。
 続けてダンッ、ガンッガンッガンッとビルの避難用金属製螺旋階段から上ってきた音は明らかに急いている足音だった。
 更にカンカンカンカンッと規律正しい音も金属製の階段に反響した。 その中から恐らく1人分と判断される2番目の音を風音も含めた雑音から聞き分けた彼女は薄笑を浮かべていた。
 しかしそれが意思に反していたのか、表情を険しくして次の指令を飛ばした。

「指揮官、対象の分断に成功」
「C班はII段階へ移行せよ」
「A班、目標 前のドアへ到着」「B班合流完了」

 それは予定調和、寸刻違わぬ最良の行動。 ダダダッと1対の疾駆する足音が先に居たビルの方へと遠ざかったのも微かに聞こえたようだがそれに気を止めはしなかった。

「突入、予定通り目標の少女を鎮圧して」

 バンッ、と音がした。瞬間、彼女がサングラスを掛け目を覆うと同時に強烈な光が15m上の彼女まで下から駆け上がった。
 閃光弾、下で使われたそれの余波であった。彼女はトランシーバーに向かい眼も開けぬまま告げた。

「A班、状況報告っ」
「少女は我々を見つけられていないと思われます」
「了解、レシーバーの音量を上げろ」

 間髪入れず状況把握をしたのは、戦場においての迅速な情報は後の勲章より勝るものだからだろう。

「聞こえるかワニガメのユイ、私はヤマカガシのシェイド。 D.F.の者(ハンター)だよ」

 轟々と台風の最中のような音が彼女の耳元に届いたがそれでも無言のままだった。

「ド……コ、ダ、キサ、マァ!」

 猛り狂う金切り声が響くが、彼女は聞く耳を持たずに状況確認もしないまま部下に号令する。

「A 班、B班は後退せよ。D班、発砲(サイショット)」
「ああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ」

 瞬間、タタタンっと複数の銃声が響く。彼女が退いた此方の隊員を認識する前に叩くが為の狙撃班による十字斉射。
 悲鳴が上がるのは狙撃銃が太腿を正確に撃ち抜いたからだろう。 しかし、 彼女はまたしても確認しない。
 トランシーバーから音が途絶え、彼女は次の指示を出す。

「次、C班」

 パスパスパスパスッ。常人では気付かないだろう音は、しかし彼女の元に届いていた。

「対象乙、呪詛悪魔・シマヘビのティーゲルは死亡」
「了解、A班はそのまま捕 獲、B〜D班は撤収作業を」

 タタタタッ、とまた音がして。

「対象甲を確保」
「作戦目標完了、これより帰還する」

 呪詛悪魔の誅滅を含む作戦は一分の遅延も無く5分と掛からずに終了した。


P.E.T.S & Shippo Index - オリジナルキャラ創作