このショートストーリーでは、登場人物・組織設定など、小説「死の先に在るモノ」を未読の方には分からない要素が存在します。
よって、「死の先に在るモノ」を未読の方は、面白さが半減する可能性があります。
ぜひ、「死の先に在るモノ」(少なくとも3.5話まで)を先にご覧になった後で、お楽しみください。
また、事前にこちらのページで呪詛悪魔とドミニオン・フォース(D.F)とは何か、について知っておくことをお勧めします。
「今、私達を無能、と言ったのか」
執務室らしきその部屋で発言者である女は非常に憤っていた、五体中から溢れ出る殺気を隠そうともしないのがその確たる証だった。
対する男は鉄面皮を崩さず肘を机に突き両手を組んで彼女を見ていたが、若干眉根を強張らせて射抜くような視線を送っていた。
「そうだ、現状のD.F.では君を生かしきれん。これは賛辞だと思っていただきたい」
彼は何故憤るのか 皆目検討も付かない様子だった、対する彼女は筋肉の弛緩をせず格上と分かる相手に全く怖気付かない。
「思い違いも甚だしいぞ、イグアナのロイ。侮るのは勝手だ、しかしお前が全てだと思うな」
つまらないものを見る視線で彼女を見下すロイ、人格面の評価を下げたのだろうか。
「この程度に気を立てるとは君の評価を改めなければならんな」
言葉の応酬、そこに一切の馴れ合いはなかったがそれに飽いたらしい彼女の方が先に動き出し た。 フッと息を吐き捨てるように漏らし、余裕の顔を一瞥すると呪詛を紡ぐが如く口を開いた。
「解らんだろうね、誇りなどない狼には。ならば黙って見ていればいいさ、この暗がりで我々の評価を改めながらね」
両の足を揃え、一礼して彼女は真中にロイを見据えた。
「ヤマカガシのシェイド、これにて失礼させて頂くよ。 興味惹かれる話ではあったが固辞させていただこう」
件の発言後一瞬とて殺気を緩めなかったシェイドは凛とした所作で執務室を後にした。
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「アレは危険な男だ」
デスクに戻って控えていた部下に開口一番、不機嫌を隠さずに彼女はそう口にしていた。
「初めて相対したが私は彼程怜悧な男を知らない。確かに上官殿が手を拱く可能性もあるだろうね」
酷く腹立てていたがその実、彼我の戦力差をある程度把握していた。着任して以来公の走狗として駆け抜けてきた経験の賜物であった、が。
身体の細部までを見透かした様な視線を思い返すと、その彼女を以てしてもゾクッと背中に冷たい物が走った。
丁度そこへ一人の女性が駆け込んできて、デスク前で急静止すると息も整えずに紙束を差し出したので彼女は思考中断、素早く切り替える。
「ハアッ、ック、ハァ。 シェイド殿、出動命令ですッ!」
彼女から紙束を奪い取るとパララララッとページを数瞬の内に捲り終えて話しかけた。
「了解、現時刻を以てヤマカガシのシェイド、デッドエンジェル保護の任に就く。 A〜D班に連絡、各員装備を整え1800に指示された箇所に移動するよう手配を頼む」
デスクに座ったのつい先程だと言うのに彼女は防弾チョッキを着込み、コートを羽織って外に駆けだしていた。