「死の先に在るモノ」 ショートストーリー 

チェンジ!

 

と、突然、サキの背後から男が現われ、サキを抱き上げて羽交い絞めにし、ナイフを突き付ける。

「な?! 呪詛悪魔?! 一体どうやってここに……」
「へっへっへっ、おい、このガキを殺されたくなけば、オレの言う事を聞くんだな!!」

レオンは、役所の世界に呪詛悪魔が侵入した事に、DF警備部の役立たずどもを内心で罵りながら、油断無く身構え、サキ奪還の隙を窺う。
ところが、当のサキはというと……

「あれ〜〜どしたの〜〜? なになに? 新しい遊びなの〜〜?」

全く状況を理解していなかった。
余りの緊張感の無さに、レオンは思わず脱力しそうになるが、サキの手前、何とか踏み止まる。
一方の男はというと、サキの言葉を完全に無視してがなり声を上げる。

「いいか! このガキの命が惜しかったら『白鷺のサキ』を『紅の凶天使』をここに連れてくるんだな!」

その台詞に、レオンは呆けたような・言葉に詰まったような顔になり、サキは自分を指差してしきりに自己主張する。が、男は全く気が付いていなかった。

「……あ〜〜、連れてくるのはいいが……一体何をするつもりなんだ?」

「へっへっへっ、オレは知ってるんだぜ。『紅の凶天使』の弱点は『小さな子供』だって事はよ。だから、このガキを楯に脅せば(エマ倫規定により削除が適当な鬼畜系エロゲテイストの性的表現が数行)って訳だ! ひゃっひゃっひゃっ!!」

人質を取った事により、精神的優位に立ったと勘違いした男は、聞かれもしない事を得意気に披露する。その不快な雑言の羅列に、サキの顔が次第に不機嫌になっていき、レオンの表情が冷徹な工作員の物へと変貌していった事に気付きもせず。
三者の均衡を崩したのは、苛立ちの頂点に達していたサキだった。

「むう……よくわからないけど〜なんかむかつくぅ〜〜〜、ねえレオ〜ン、このおじさん、ぶっとばしちゃってもいい〜〜?」
「お! おじさんだとぉ〜! こ、このクソガキャ、ぶっ殺されてえのか!!」
「おじさん、お口臭い。はなれて」
「こ……殺す!!」

拙い……そう感じたレオンは、サキに向かって叫ぶ。

「サキ! そいつ、好きなだけぶっ飛ばして良いぞ!!」
「りょ〜〜〜かい♪」

レオンとしては、サキが抵抗する事によって、自分がサキを救出して男を始末する為の隙を作らせるのが目的だった。
だが、サキは、幼女であってもサキだった……というべきだろうか?

サキは、せ〜の〜、と掛け声を掛けると、ぶら下がっていた足で弾みを付け、思い切り後ろを蹴る。果たして、図ったかどうか定かでは無いが、サキが蹴った場所には、呪詛悪魔の男の金的が存在していた。
サキに思い切り急所を蹴られた男は、サキとナイフを落とし、余りの痛みに耐えかねてうずくまる。人質のはずの幼女から、これほど的確な逆襲が来るとは想像の埒外だったのだから、無理も無い。

一方、男の腕の中から逃れたサキは、体に付いた埃を叩いて払うと、未だうずくまっている男の脳天にかかと落としを見舞う。更に、うつ伏せの状態で悶絶する男をひっくり返して胸部に馬乗りになる、いわゆる『マウントポジション』を取ると、その顔面目掛けて凄まじい速さと勢いで拳を叩き込む。
あまりの惨状に唖然としていたレオンだったが、男の顔が見るに耐えない程変形し、その手足がぴくりとも動かなくなったのを見て、慌てて止めに入る。

「お、おい、サキ! もういいから止めろって!! お前が手を汚す必要は無いだろ!!」

そのレオンの言葉に、サキの手がピタッと止まる。緊張が解けたのか、その手がだらりと力無く落ちる。そして、男の上から退くと、急いで駈け寄って来たレオンに倒れこむように抱き締められた。

「……レオン……なんだか眠たくなってきちゃった……」

レオンの脳裏に、先刻のイリノアの言葉が浮かんだ。『意識を失う事があったら、急いで戻ってくれ』という警告が。嫌な予感を振り払うように、レオンは極力優しい声で囁く。

「ああ、後は俺に任せて、お前は眠ってて良いぞ」

その直後だった。意識を失っていたはずの男が、幽鬼のように立ち上がって迫ってきたのは。

だが、相手が悪すぎた。レオンは顔色一つ変えずに投げナイフを投擲する。ナイフは、狙い過たず男の眉間を貫き、男はもんどりうって倒れる。天界への侵入に成功した実力者としては、あまりに呆気ない最期であった。

「……あれ……レオン? 何かしたの……?」
「いや、何もしちゃいないさ。いいから、お休み」
「うん……おやすみ……」

寝息を立て始めたサキを背負い、レオンは病院へ向かう。そろそろ、約束の時間だったのだから。

 

 

 


P.E.T.S & Shippo Index - オリジナルキャラ創作