「死の先に在るモノ」 ショートストーリー
このショートストーリーは「死の先に在るモノ」という小説作品のギャグ話です。
「死の先に在るモノ」を未読の方は、面白さが半減する可能性があります。
ぜひ、「死の先に在るモノ」(少なくとも第5話まで)を先にご覧になった後で、お楽しみください。
Ririririririririririri!!
目覚ましの音に、レオンは目を覚ます。
彼は、本日は久々のオフであり、のんびり過ごす予定いた。
ゆっくりと、ベッドから体を起こしたレオンは、ふと違和感を感じる。気配がするのだ。何故かベッドの上、毛布の中から。レオンの腰の辺りの隣から。
気配のする場所に目を遣ると、毛布がこんもりと盛り上がり、それがごそごそと動いているのだ。
「うーん」
などという、女の声と共に!
(……ええと……落ち着け落ち着け……昨日の夜、何をした……そう……セリーナとバーで酒を飲んで……相変わらずセリーナは酒豪……ってそんな事は置いといて、セリーナとはバーを出た所で別れたんだったよな。そして、そのまま官舎に帰ってきて寝たはずだ。そうだ、昨日は珍しく早めに……夜中の12時頃にベッドに入ったんだ……もちろん一人でだ。間違い無い)
そんな取り留めの無い事を考えながら、混乱した様子でベッドの上にできた盛り上がりを見据える。
昨日の記憶を総動員しても、このような状況を解決する手立てにはならなかった。
こうしていても埒が明かない……そう判断したレオンは、意を決して毛布を勢い良く捲る。すると……
「#&$%※φ>¢£Σ@!!!!」
声にならない声を上げたレオンは、一瞬で石化したように凍りついた。
何故なら、レオンの足に小さな女の子がしがみ付いていたのだから。
「ん……」
その女の子は、レオンの声に驚いたのかゆっくりと目を開ける。
そして気だるそうに目を擦りながら、緩慢な動作で体を起こす。
「あ……」
起き上がってきた少女は、驚いたようにその瞳を見開き、数回目を瞬かせる。
そして、満面の笑みを浮かべながら、抱きついてきたのだ。フリーズしたままのレオンに。
そのショックからか、レオンは我に返る。
余りにもショックな事が連続した為、パニックに陥りつつも、その女の子に声をかける。
「き、君……名前は?」
「ん〜〜〜? 名前〜〜?」
「そ、そう、君のお名前は何かな?」
「私の名前は〜〜サキだよ」
その返答に、レオンはぎょっとなって、その女の子の顔をまじまじと見つめる。確かに、自分のよく知る……愛すべきパートナーの面影がはっきりと認識できる。
パニックに陥ってはいたが、この状況を何とかしようと、なるべく詰問調にならないように、その幼児に訊ねた。
「で、なんで俺に抱きついてきたんだい?」
「え? なんでだろ……わかんないや。ん〜とねえ」
「?」
「……おじちゃん、だれ?」
その何気ない、(多分)悪気の無い一言は、再びレオンをフリーズさせる。
ショックのあまりに固まってしまったレオンを、サキと名乗った幼女は不思議そうな瞳で眺めていた。
「あれ? おじちゃん? へんじがない、ただのしかばねのようだ」
「『おじちゃん』じゃねぇぇぇぇぇ! 俺はまだ27だぁぁぁぁぁ!! あと、勝手に殺すなぁぁぁぁぁぁ!!」
「きゃはははははっ!! おもしろ〜〜い!」
「俺の名前は『レオン』だ。だから、俺を呼ぶ時は『レオン』と呼んでくれ、な」
「うん、わかった!! レオンのおじちゃん」
「わかってねぇじゃねぇかぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「きゃははははは! こわ〜〜い!!」
と、そこへノックの音が響き、ドアが開けられる。
「レオン、一体何事? 朝から何を騒いで……」
レオンの部屋の寝室の扉を開けたセリーナが見た物は、部下兼友人が幼女と戯れている(?)姿だった。その有様を見たセリーナは、ご多分に漏れずフリーズする。
「ん〜? だれ〜〜?」
セリーナのフリーズを解凍したのは、舌足らずな幼女の声だった。
その声で我に返ったセリーナは、何を勘違いしたのか、うんうんとしきりに頷く。
「レオンってば、奥手だ奥手だと思ってばかりいたけど、しっかりと手を出していたのね。寂しいけど、これは祝福すべき事よね。って事は、あのサキも、そこまで関係が進んでいるんだったら、男性に対する恐怖心も克服できたと見るべきよね。でもわたくしの目を掠めてここまで子供を育てていたなんで、あとで詳細をしっかりと聞いてやらないと。あ、そうだわ、極秘に産んでいたって事は、結婚式はまだだろうから、結婚式を盛大に挙げて」≪どがす!!≫(←レオンの手刀がセリーナの額を直撃した音)
「……落ち着け、セリーナ」
「い、痛いじゃない。何するの! そ、そんな事より、何時の間にサキとの隠し子を……」
「をい、何時まで錯乱してるんだ。隠し子なんかいる訳ねえだろ……こいつ、多分、サキ本人だ」
その疲れたようなレオンの言葉に、改めて問題の幼女を眺めて見ると、なるほど、確かにサキとそっくりだ。あのサキの子供時代はこうだったのだろうという想像そのままだ。
その幼女の服装は、小鳥の模様がプリントされた幼児用パジャマという物だった為、今までは気が付かなかったのだが、レオンの部屋の寝室の床には、赤のジャケットと白のスラックスが脱ぎ散らかしてあったのだ。
どうやら、小さくなった(?)際に、自前のシャツや下着等は、自力で幼児サイズのパジャマ・下着に変えたようだが、自力で作り出した訳ではない、官給品のジャケットとスラックスは、そのままだったのからだろう。
気を取り直したセリーナは、床に落ちていたジャケットの内ポケットを探る。そこから見つけ出した手帳は、間違いなくサキの物だった。その手帳をレオンに託す。
「レオン、この手帳に何か手掛かりらしき物がないか、調べてみて」
「え? だ、だが、サキのプライバシーって物が……」
「わたくしは、この子を着替えさせるから、その間に調べておきなさい、って事よ。ほら、さっさと出て行く!」
そうこうする内に、レオンは寝室から追い出されてしまった。
仕方なく、サキに内心で侘びを入れつつ、スケジュール帳の部分のみ、関係ない個所を極力見ないよう読み進めていく。すると、問題の個所は呆気なく見つかった。サキの手帳の、昨日のスケジュールの個所に、こう記してあったのだ。
[23:30 Dr.イリノア研究室 新型封冠実験]
レオンは手帳を閉じて呟く。
「原因は、あいつか……」
その呟きとほぼ同時に寝室の扉が開く。
そこには、活動的な服装に身を包んだショートカットの美少女佇んでいた。その少女は、これまでと違う服装の自分に戸惑うように、おずおずと進み出る。
「あの、レオン、この服、どう?」
「あ、ああ、よく似合っている、可愛いよ」
レオンに褒められたサキは、ぱっと顔を輝かせる。
「ありがとう、うれしい」
「その服をコーディネイトしたのはセリーナだろ? だったら、セリーナにもお礼を言っときな」
「うん! ありがとう、おばちゃん!!(←悪気無し)」
「お!!!!」
「げげ!!」
レオンは、ショックの余り完全に凍り付いてるセリーナを尻目に、サキを小脇に抱えると、脱兎の如く部屋を飛び出して階段を駆け下り、特務機関官舎の外に出る。
途中、言葉にならない悲鳴らしき物が聞こえたような気がしたが、そんな事には構っていられなかった。
「なになに? どうしたの? 今のおもしろかった〜〜。またやって〜〜〜」
「……頼むから、ちょっと大人しくしててくれないか?」
肩で息をするレオンの口調と表情から、自分の望みが叶えられそうも無い事を悟ったサキは、不満気に頬を膨らませる。
「え〜? なんで〜〜? もうやってくれないの〜〜? むう〜〜、つまんな〜い〜」