夢追い虫カルテットシリーズ

VOL.52「リーダーズの工房訪問」

めいどの世界第8サポートチームの一員である少女・トックリバチのとうこの特技は陶芸である。彼女の製作する陶器類はクオリティの高さに定評があり、それゆえ彼女は「めいどの世界」の一角にある工房での作業を許されていた。そんな工房にめいどの世界第8サポートチームリーダー・ハサミムシのはることサブリーダー・ミツバチのあいこの2人が訪れる所から今回の話は始まる。
2人が来た時、その工房には壺、茶碗、皿など各種の陶器が雑然と並んでいた。

はるこ「これはちょっと凄いわね…。」
あいこ「『見てもらいたいものがある』って言われたから来たんですけどねー。」

とここにとうこが登場した。とうこは紺の作務衣姿で、何故かリコーダーを持っていた。

とうこ「あ、いらっしゃい。」
はるこ「あ。早速だけど、見てもらいたいものって何?」
とうこ「それはいろいろありますよ。まずはこれ!」

そう言ってとうこが散らばった陶器から取り出したのは一見何の変哲もない小型の壺であった。

とうこ「これをここに置いて、笛を吹くとですね…。」

とうこは登場に持っていたリコーダーを吹き始めた。すると…

あいこ「あ!」

壺の中から可愛らしいデザインが施された蛇のぬいぐるみが、まるで生命を与えられたかのような動きで出てきたのである。

あいこ「これかわいいですねー。」
とうこ「こんな芸をするコメディアンがいたことを思い出しまして。ちょっと面白いので作ってみたんですよ。」
はるこ「凄いわね。」

はることあいこは驚いているようであったが、とうこはさらに畳み掛けるように新しい壺を取り出した。

とうこ「続きましてはこれです。」

その壺は渋めのデザインの小さなもので、何故か「キムチ」という文字が書かれていた。。

はるこ「キムチ?」
とうこ「そうです。この壺にこの白菜を入れるんですよ。」

とうこは2人にに壺の中が空であることを確認させた上で刻んだ白菜を入れ、壺に蓋をした。

とうこ「で、3分待ちます。」

3分後…

とうこ「3分経ちましたね。では見て下さい。」

とうこは2人に壺の中身を見せた。すると…

はるこ「あ、確かにキムチね!」
あいこ「凄いですね!」

白菜はいい感じに漬かったキムチへと変わっていた。

とうこ「どうです。これで一旦お茶にしましょう。」
あいこ「いいですねー。」

かくて突然といった感じではあったがお茶会が始まった。

はるこ「美味しいわねこのキムチ。」
あいこ「キムチ以外には何があるんですかー?」
とうこ「たくあん、柴漬け、ピクルス…いろいろありますよ。めいどの世界の食堂で出されている漬物はこれの大型バージョンで作られているんです。」
はるこ「知らなかったわ…。」
あいこ「それにしても凄い作品ですねー。これ全部とうこさんが作ったんですか?」
とうこ「全部、というわけではないんですよ。いえ、壺そのものはあたしが全部作ったんですけど、『キムチを3分で』みたいな機能は他の人がつけるんです。」
はるこ「他の人って誰なの?」

と、ここで3人がいる部屋の奥に続くドアから一人の少女とも女性とも付かぬ雰囲気の守護天使が出てきた。

???「あ、とうこ。それからこの方たちはお客さん?」

その守護天使はくりくりとした目玉を持っていて緑色のセミロングの髪を自然な感じで垂らしており、「パステルのレインボーカラー」とでも言いたくなるような色合いの作務衣姿であった。

とうこ「あ、みうさん。」
あいこ「誰ですかこの方は。」
とうこ「カメレオンのみうさんです。この人がさっき言った陶器に機能をつける仕事をしているんですよ。」
みう「あ、どうも。めいどの世界第6サポートチーム所属・自称万能魔法使い・カメレオンのみうです。よろしく。」
はるこ「めいどの世界第8サポートチームリーダー・ハサミムシのはるこです。うちのチームのとうこがいつもお世話になっているようでありがたいことです。」
あいこ「同じくサブリーダーのミツバチのあいこです。よろしくお願いします。」

かくて自己紹介が終わり、陶器類の話を4人で再び始めることとなった。

はるこ「あの、さっき言っていた万能魔法使いということと陶器の機能付加の関係って何ですか?」
みう「ああ、そのこと。あたしが多種多様な魔法を壺や茶碗に込める事でいろいろ面白いことができるようになるの。もちろんそれには陶器自体にも魔法に耐えるだけの強さが必要だけど、とうこの作る陶器は質がいいからその条件を満たすの。だから2人一緒に仕事をしているというわけ。」
あいこ「そうだったのですか…。」
みう「あ、せっかく来たんだからもっと面白い作品を見ていきなさいよ。とうこもそのつもりでこの人たちを誘ったんでしょ?」
とうこ「あ、はい。」
みう「じゃあ続けましょう。」

再び陶器類のショウは始まった。

みう「これらはさっきのキムチ壺の兄弟製品たちよ。」

棚にずらりと並んだ壺にはそれぞれ「味噌」「醤油」「日本酒」「ワイン」「バルサミコ酢」などと書かれた壺が所狭しと並んでいた。

みう「もうとうこから聞いているみたいだけど、製品版は食堂でただいま活躍中よ。これは試作品のバックアップ。」
はるこ「おお…。」

続いてみうが取り出したのはシンプルなデザインの皿であった。

みう「このお皿にはオートバランサー機能が付いていて誰でも簡単に皿回しができるの。それっ!」

みうは皿回しの実演を手馴れた感じで行った。

みう「はいっ!」
あいこ「面白いですねー。」
とうこ「次はこのお茶碗です。」

とうこが取り出したのはご飯用と思われる茶碗であった。

とうこ「このお箸で何でもいいから曲を思い浮かべながらお茶碗を叩いてみて下さい。」
はるこ「はい。」

とうこから箸を押し付けられるように渡されたはるこは戸惑いながらも茶碗を叩き始めた。すると…

はるこ「え?」

茶碗が「チューリップ」を奏で始めたのである!

はるこ「こ、これは…。」
とうこ「よく男の子がご飯を待つ時にお茶碗を叩きますけど、その時にもっと面白くならないかなと思ったのですよ。」
はるこ「へえ…。」

その他にも面白い陶器を続々と紹介するとうことみうであったが、そんな中、あいこが一風蓋のされた変わった壺を発見した。

あいこ「あ、これは一体…。」

あいこが手に取った壺はかなり毒々しい赤色で、蓋と壺の間に「封印」と書かれたシールが貼ってあった。

とうこ「あ、それはダメです!」

とうこが慌てて叫ぶ。

あいこ「えっ?」

とうこの叫びに反応したあいこは手がお留守になってしまった。そのせいで壺はあいこの手から滑り落ち、そして…

ガチャン!

壺は砕け散った。すると…

みう&はるこ&あいこ&とうこ「!」

部屋の中に煙が充満し、それが晴れた時に部屋にいたのはカメレオンとハサミムシとニホンミツバチとトックリバチが1匹ずつ…そう、4人とも前世に戻ってしまったのである。
というわけで次回から「夢追い虫カルテットシリーズ」は「夢追い虫昆虫館シリーズ」へと変更になります。

おわり…などということはなく。話は続く。

はるこ(久しぶりねこのフィーリング…。)
あいこ(どうしましょう〜。)(←為す所なく飛び回っている)
とうこ(みうさん、すみません!)

とうこはみうにテレパシーを送った。

みう(何?)
とうこ(あそこにある青い壺の封印をはがして蓋を外してくれませんか?)
みう(分かったわ。)

カメレオンの姿になってしまったみうは、苦労しながらも封印シールをなめて柔らかくしてはがし、頭突きで蓋をずらした。すると、壺から煙が出てきて、それを浴びることで4人は元の守護天使の姿に戻った。

はるこ「あー、ひどい目にあったわ。」
あいこ「…ごめんなさい。」
はるこ「で、あれは何だったの?」
とうこ「あれは…懲罰ガスを封印するための壺だったんです。」
はるこ「懲罰ガス?」
みう「ご主人様に『愛しています』といったら前世の姿に戻される、っていう罰があることは知っているでしょ?あれのために使うガスなのよ。で、青い壺に入っていたのが取り消し用のガス。」
あいこ「そうだったんですね…。」
とうこ「でも、あんな危険なものだったなんて…。あの罰再考したほうがいいのではないでしょうか?」
みう「全くね。」

というわけで「めいどの世界」の制度的欠陥への言及に向かう方向で4人の話は果てることなく続くのであった。

おわり


エマさんのアイディアを参考にして作った話です。ありがとうございました。ちなみに、「夢カル」史上初の非昆虫のオリキャラであるところのカメレオンのみうについてですが、彼女は22歳で、髪の色は基本的に緑ですがオシャレで変えられます。「万能魔法使い」の力は「保護色」からのイメージです。


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