夢追い虫カルテットシリーズ

VOL.51「ピンクレディーの消えます」

ここは呪詛悪魔「ハエの洋」の隠れ家である。例によって洋と仲間の呪詛悪魔「ハエの饗介」が発明を囲んでミーティングをしていた。

洋「今回の発明品はこれ!」

そう言うと洋は錠剤の入ったビンを取り出した。

饗介「何だこれは?」
洋「これは定番とも言える品だ。つまり透明薬なのだ。」
饗介「おお!それはいいな!」

饗介は小躍りしながらビンを手に取った。しかし、すぐにその発明品の問題点に気がついた。

饗介「でもさ…内服の錠剤だと…服を脱がなきゃ透明化の効果が出ないということにならないか?」

饗介が不安そうにたずねる。これに対し洋は自信満々な様子で切り返した。

洋「大丈夫!その対策としてこれがある!」

そう言って取り出したのは、ビンに入った無色透明な液体であった。

饗介「これは一体…?」
洋「布を透明化する薬品だ。服に数滴振り掛けるだけでどんどん浸透し、全て透明になるのだ。これを使えば風邪をひくことはないわけだ。」
饗介「さすがだな!抜かりがないよ。」
洋「どうもね。」

かくして、2人は透明薬を使って面白いことをすべく出発することにした。
まずはじめに、2人は裸になり、服を1枚1枚着て「布を透明化する薬品」を振りかける、という作業を繰り返した。当然見た感じは2人は裸でいるのと変わりはない。

饗介「何か…変な感じだな…。」
洋「まあ服を着ている感じはあるから大丈夫だ。」

そして、全ての服を着、靴(透明化済)を履いたところで「透明薬」を服用した。(ちなみに洋はコンタクトを入れている)
たちまちのうちに2人は透明化し、姿が見えなくなった。

饗介「おおー、これはすごい。」
洋「じゃあ行こう。ちなみに効き目は3〜4時間というところだからな。効き目が切れるかもしれないから薬も持っていこう。」

洋は透明化したハンカチで包んだ透明化用の薬のビン2本を持ち、そして2人で出発するのであった。

まず二人は映画館へと向かった。定番・映画のただ見を行うためである。
基本的に映画館は鍵をかけないので2人はすぐに入館できた。そして…

洋「つまらなかったな、この映画。」
饗介「おすぎです!この映画に金払うのは馬鹿です!なんちゃって。」

お金も払っていないのに言うことだけは1人前の2人であった。

続いてこれまた定番のつまみ食いをするためにレストランの厨房に向かった。ちなみに洋の透明薬は食べたものが見えるような欠点は抱えていないので食べ物も食べ放題であった。

コック「あれ?ここにおいておいたはずなのに…。」
饗介(ちょっと薄味だな…。)
洋(確かに…。)

評論することに変わりはない2人。で、結局…

饗介(これもらっていこう。)(パフェの器を持ち上げる)
コック「げ…パフェが空中遊泳しとるううううう!」(バタッ!)
洋(気絶した…。)

やっぱり定番と言える「人を驚かす」もやってしまうのであった。

続いては…

饗介「おい、やっぱりこれを抜かしては透明人間は語れないだろう。」
洋「確かにな…。と言うわけでレッツゴー女湯!」

2人は意気揚々と銭湯の女湯に侵入した。しかし、しばらくして…

饗介「おえええええっ!」
洋「ぐあぶあごがぎが!」

マッハで女湯から出てくる2人の姿があった(見えてないけど)。

饗介「ばあさんばっかりじゃねーか!」

そう。彼らが女湯に侵入したのは昼間。昼間に銭湯にいるのは老婆ばかりなのであった。

饗介「お…恐ろしいものを見てしまった…。」
洋「入る時間考えりゃよかった…。」

老婆の裸身が頭から離れず、苦しむ2人。2人は路地裏でのた打ち回った。
結局、2人は立ち直るためにかなりの時間を要してしまったのであった。

饗介「あー、ひどいもの見た。」
洋「何か口直しになるものはないかな?」
饗介「口直しねえ…そうだ!」

饗介の声が急に明るくなった。

饗介「大事な人を忘れていたよ。まゆりちゃんたちにちょっかいをかけに行こう!」
洋「おお、そうでした!そういうことなら早速実行だ!」

かくして、2人は光彦とカルテットが住む家へと向かった。
実は、この段階で薬の効き目の切れる時間はかなり近くに迫ってきていたのだが、2人はそれに気づいてはいなかった。そのせいで2人はひどい目にあうのであるが、それはまた後のお話。
さて、光彦とカルテットの家に着いた2人である。2人は悩んでいた。

洋「どうやって入ろう…。」

透明人間である利点は誰にも気づかれないことである。つまり、ノックをしたりガラスを割って進入したりしては透明化した意味がなくなってしまうということなのである。
そうやって進入方法に迷っているところに救世主とも言える存在が現れた。

みゆう「♪〜。」

みゆうが買い物からちょうど帰ってきたのである。

饗介「ラッキー。みゆうちゃんについていけば!」
洋「どうせ彼女鈍いから気づかないだろ…。」

彼ら2人にとって今のみゆうはまさに「天使」であった。そして…

みゆう「ただいま〜。」
洋(よし今だ!)
饗介(OK!)

みゆうが扉を開けるのを見計らって2人は侵入したのであった。

ひとみ「お帰りなさい。」
みゆう「まゆりちゃん、頼まれたものは全部買ってきたよ。」
まゆり「ありがとう。これで今日はおいしい豚の角煮をご主人様に食べていただくことができますわね。」
あすか「楽しみ…です…。」

カルテットの4人が晩御飯に向けて思いをめぐらせているその時!

まゆり「きゃっ!」

不意にまゆりの胸に揉まれるような感触が走った。

ひとみ「どうしたのですか?」
まゆり「今急に胸をもまれたような気がして…あ、また!」
みゆう「大丈夫?」

意表をつく出来事に顔を赤らめるまゆり。しかし、その直後もっとすごいことが始まった。

まゆり「!?」

まゆりの着物が急に脱げ始めたのだ!もちろん饗介の仕業である。

みゆう「あ、まゆりちゃん!」
まゆり「着物が…見えない手に脱がされるように…。」
饗介(ふふふ…。もっと早くこうすればよかったぜ。これでまゆりちゃんの裸を…。)

饗介は有頂天になりながらまゆりの着物を脱がせていた。しかし、彼と洋には徐々に破滅の時が近づいていた。

洋(ん…あ、まずい!)

そう、薬の効き目が切れ始め、まず始めに透明化しておいた服が見え始めたのである。

洋(逃げなくては!)

いち早くそれに気づいた洋は慌てた。しかし、もう遅かった。

あすか「この…服は…何…でしょうか…?」

まずあすかが気づいた。そしてそれから暇もなく…

洋(まずい!)

身体のほうも透明化の効き目が切れ、饗介と洋は完全にその姿を現してしまったのであった。

ひとみ「あー!」
まゆり「!」
みゆう「ハエ!」
饗介(うっへっへ…。もうすぐまゆりちゃんの裸を…。)「あれ?」

事ここに至って被害を受けていたまゆりから浮かれていた饗介に至るまでその場にいた全員が気づいた。

まゆり「そうですか…。やはりあなたたちでしたか…。」
洋「まずい!逃げるぞ!」
饗介「OK!」

饗介と洋は逃げようとした。しかし…

ひとみ「それはいけませんよ!」

ひとみに首根っこを力任せにつかまれて完全に逃げ場を失った。とその時…

ゴトッ!

ひとみ「…?これは何ですか?」

透明化用の薬2ビンが洋の懐から落下した。

饗介「あ!これは!」
まゆり「この慌てぶり…。よほど大事なものなのでしょうね…。いったい何なのですか?」
饗介「教えないね。」
まゆり「そうですか…。ではひとみの怪力があなたたちの首の骨を粉砕することになりますが…。」

怒りのオーラがにじみ出ていることが傍目にも分かる状態のまゆりは恐ろしいことを口走った。

饗介「わ…分かった。話すよ。」

まゆりのホラーじみた迫力に押され、饗介と洋は真実を洗いざらい話した。

まゆり「そうですか…。どうしましょうか…そうですわ!」

まゆりは微笑を浮かべた。その微笑みには見るもの全てを戦慄に陥れる恐ろしさと美しさがあった。

まゆり「この2人に透明化する薬を飲ませるのです!みゆう、あすか、やりなさい!」
みゆう「う、うん。」
あすか「はい…。」

普段とは違うまゆりの態度ゆえ、あすかとみゆうは疑問をはさむこともできぬままひとみに首根っこをつかまれている饗介と洋に透明薬を飲ませた。2人はもちろん透明化した。

まゆり「そう…それでいいのですわ…。お次は…。」
饗介「!?」
まゆり「あすか、みゆう、この2人を思いっきりくすぐるのです!」
洋「何だと?」
まゆり「さあ、おやりなさい!」
あすか&みゆう「は、はい!」

もはや鬼神が取り憑いているとしか思えないまゆりの迫力はあすかとみゆうを動かすのに十分であった。
かくして、饗介と洋にくすぐり地獄が襲い掛かることとなった。

饗介「わはははは!」
洋「く、苦しい!」
まゆり「ええ?わたくしにはまだ平気なように見受けられますわよ。何と言っても顔が見えませんから。苦しいのかなんて分かりませんわ。まだ平気なのでは?」
洋「くそ、そういうことかい!」

今のまゆりには普段のおしとやかさや優しさなどと言うものは存在しない。まゆりの目は血走り、髪は逆立っていた。
そんなまゆりの様子にはカルテットの他の3人も恐れをなしていた。

みゆう「ハエの人にはあたしも恨みはあるからこうやってくすぐるのは悪い気はしないけど…。」
ひとみ「今のまゆりさん…怖いですね…。」
あすか「全く…です…。」

3人の恐れも露知らず、まゆりのテンションはどんどん上がっていった。

まゆり「さあさあさあ!まだまだこれからですわよ!あなた方にはたっぷり苦しんでいただきますから!」
饗介「はーはっはっはっは!」
洋「助けてくれー!」
まゆり「おーほっほっほ!いい気味ですわ!」
あすか&みゆう&ひとみ(怖い…。)

かくして、まゆりによる地獄のくすぐりタイムは果てることなく続くのであった。

みゆう「ねえ、もう…やめない?」
まゆり「まだまだですわ!」

おわり


「まゆり鬼モード」再びといった感じですね。それに悪事の定番「透明人間」を添えて。


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