夢追い虫カルテットシリーズ

VOL.46「続・モロゾフの陰謀 ~個人戦~」

いよいよ乙女たちにとっての一大イベント、バレンタインデーの季節がやってきた。

世の男性の大多数がチョコのひとつも貰えず、あるいは形だけの義理チョコのみという戦果に終わるある意味では暗黒の日でもあるわけである。日高光彦にとっても昔はそうであった。しかし、現在は確実に愛情が大量に詰まったチョコ4個がもらえるのであるから幸せである。
さて、前回日高家では家にいる守護天使4人がそれぞれその愛情がたっぷり詰まったチョコを渡したのだが、そのやり方は4人が仲良く連携を取り合う、というものであった。
しかし今年は、少し風向きが異なっていた。

ひとみ「今年は完全に個人でチョコを渡すのはいかがでしょうか?」

バレンタインデーに向かってミーティングをしている中、ひとみが思わぬ提案をしてきた。

みゆう「何で?」
ひとみ「個人個人で秘密にし合って作るほうがよりいいものができるのではないかと思うのです。」
まゆり「なるほど…。」
ひとみ「そのほうがご主人様も喜ぶと思うのですが、いかがでしょうか?」

この「ご主人様も喜ぶ」というフレーズは4人にとって効果絶大であったようで、結局これが決め手となって4人はそれぞれ別々にチョコを作ることとなった。

ひとみ「何にしましょうか…。」
みゆう「どうしようかな…。」
あすか「……………。」
まゆり「迷いますわね…。」

4人はそれぞれじっくり考えた。何せ最愛のご主人様に自分の愛の証を送るチャンスとなる日である。気合が入るのも当然であった。
そして…

みゆう「できた!」
あすか「でき…ました…。」
まゆり「できましたわ!」

ひとみ以外の3人は無事完成した。
一方、ひとみは、この「個人戦計画」の言いだしっぺであるにもかかわらず、一人思い悩んでいた。

ひとみ「ビター味にしましょうか…それともアーモンド…?思い切ってチョコレートパイを作るという
     手もありますね…。ああ、悩みます!どうしたらいいのでしょうか?」

どうも、まじめな性格があだとなり、どういった内容にするのか決めかねているようであった。

そして、事態はひとみにとって最悪の展開になってしまった。

ひとみ「ああ…とうとう決まりませんでした…。」

前日徹夜したにもかかわらず、ひとみはとうとう何をプレゼントするかも決まらぬまま当日を迎えてしまったのであった。
そして、いよいよ光彦にチョコを渡す時が来た。

みゆう「ご主人様、今日はバレンタインデーでしょ?だからチョコを作ったよ!」
光彦「おお、ありがとう!」

光彦は、心底うれしそうな様子で答えた。
そんな光彦の様子に合わせるかのように、まゆり・みゆう・あすかの3人も明るい笑顔でチョコを渡した。

みゆう「あたしはねー、サクランボにチョコをかけてみたの。」
あすか「わたしは…ホワイトチョコと…ビターチョコで…チェッカーを…。」
まゆり「わたくしはご主人様の似顔絵チョコですわ。」
光彦「これはすごいな…あれ、ひとみはどうしたんだい?」

ひとみ一人だけ沈んだ様子であるのを見た光彦は、声をかけた。
すると、ひとみは悲しそうな声で答えた。

ひとみ「ご主人様…あたし…何を作るのか決められなくて…。それで…それで…ごめんなさい…。」

ひとみは今にも泣き出しそうであった。

(まずい!)

そう思った光彦はフォローに入った。

光彦「いいんだ。ひとみの気持ちだけで十分僕はうれしいよ。だからもう泣かないで。」
ひとみ「…はい。」

「はい。」とは言ったものの、ひとみの気持ちが晴れることはなかった。


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