夢追い虫カルテットシリーズ

VOL.45「恐るべきみゆちゃん」

饗介「どうしたものか…。」
洋「さあな…。」

ここはとある雑居ビルにある洋の部屋。そこで2人のハエ出身の呪詛悪魔・饗介と洋がカルテットに対する作戦を話し合っていた。
前回は饗介がまゆりに対して圧倒的な勝利を収めたものの、それは多分に運に恵まれたものであった。また、カルテットサイドもそのまま黙ってはいまい、という予想も容易に立つことであった。ゆえに、2人も悩んでいたのである。
とここで、洋が「ハッ」としたように口を開いた。

洋「なあ、俺はよく知らないから聞くのだが…。」
饗介「何だ?」
洋「あの4人の中で一番落としやすそうなのは誰なんだ?」
饗介「それは何と言ってもみゆうちゃんだが…お前まさか…。」
洋「そう。一番落としやすい娘を単独で狙うほうが難易度的には低いと思う。そこでだ。まずその娘を単独でさらって、それを餌に残りの娘も手中にする、というのはどうだ?」

洋の提案は当然と言えば当然とも言えるものであった。しかし、かなり成功の期待できそうなものであることは事実であり、饗介も乗り気になった。

饗介「それいいな!よし、それでいこう!」
洋「OK!では早速取り掛かろう。」

そして数日後。いよいよ決行の時は来た。

洋「いいか、これをみゆうちゃんが一人になった時に飲ませるんだ。」

そう言って、洋は饗介に錠剤と、腕時計のようなものを渡した。

饗介「何だこれ?」
洋「これは『追尾薬セット』と言って、この錠剤を飲んだ者は頭がボーっとして、この腕輪をした者にごく自然な形でついていくのだ。ちなみに2時間で効果は切れる。」
饗介「なるほど。」
洋「これを使えばお前が前まゆりちゃんをさらった時(第19話参照)のように不自然な行動をしなくてすむ、というわけだ。」
饗介「ありがたい!」
洋「じゃあ成功したら『ホテルラブラブ』の前で会おう!」(注:「ホテルラブラブ」は光彦の家からかなり離れた街外れにある閉鎖されたラブホテルである。)
饗介「了解!」

かくして、饗介と洋は街へと散って行った。
ちなみにその日は休日であり、カルテットの4人が単独行動で遊んでいる可能性は決して低くないと2人は踏んでいた(決行日をその日にしたのもそれが根拠である。)。そしてその予想は当たっていた。
光彦の家の前で待ち伏せをしていた饗介は遊びに行く4人を捕捉した。そして…

まゆり「では2時間後をめどに家に帰りましょう。」
あすか「分かり…ました…。」
みゆう「はーい!」
ひとみ「では。」

4人が分かれてしばらくしたところでみゆうの後ろから手をあてがい、そして薬を飲ませたのである。

みゆう「あ…あれ…?」
饗介「さあついておいで…。」
みゆう「うん…。」

こうして、饗介はまんまとみゆうをおびき出すことに成功したのであった。
そして薬を飲ませてから2時間が経ち、みゆうは正気に戻った。

みゆう「あ…あれ…あたし…。」
饗介「気がついたかい?」
みゆう「あ…ハエの人と…あなたはその友達?」
洋「その通り!」
饗介「俺たち2人で君をさらったわけだ。」
みゆう「あ…あ…そんな…。」

ここへ来て事態を飲み込んだみゆうの顔に恐怖の色が浮かんだ。そして、力の限り叫び、助けを呼んだ。

みゆう「だ、誰か!助けて!」
饗介「無駄だね。このつぶれたラブホテルには今俺たちしかいない。」
洋「それに、ここは街外れで人通りも少ないしね。」
みゆう「そんな…。」
饗介「ところで、脅迫状のほうは出したかい?」
洋「おう!たった今この『異次元ポスト』で。」(注:「異次元ポスト」とは、そこに出した手紙やはがきをすぐに記載された住所に送ってくれる道具である。)

一方そのころ、みゆうがなかなか帰って来ないことに心配するカルテットの残りと光彦であったが、饗介からの脅迫状が届いたことで、事態がいかなるものであるかに気づいた。

光彦「なになに…。『みゆうちゃんは預かった。返してほしくば、地図にある場所へ光彦とまゆりちゃんだけが来ること。』だと?ふざけるな!」
ひとみ「しかし、まず会ってみないことには事態は動かないでしょう。」
あすか「それに、あいつを怒らせたら何をするか分からないことも事実です。」
まゆり「…分かりましたわ。ご主人様、行きましょう!」
光彦「OK!」

かくして、光彦とまゆりは「ホテルラブラブ」に向かうことになった。

再び話を饗介たちに戻そう。

饗介「さて、脅迫状は出したけど…まだまゆりちゃんが来るのにはけっこう時間があるんだよね…。どうしようか?」
洋「おい、俺今気付いたんだけど…。」
饗介「何だ?」
洋「みゆうちゃんって、けっこういい体してるよな。」
饗介「そう言われてみれば…。性格がアレだから気がつかなかったけど…。」
洋「俺の目によると、82-57-82ってところだな。」(ちなみに正解。)
饗介「この性格と体のギャップ…。たまらないよな…。」
洋「顔もめちゃくちゃかわいいしな…。」

ハエコンビの会話はみゆうの耳にも届き、それがみゆうの不安をあおった。

みゆう「何…?何なの…?」
洋「ちょっと遊んでみますか!」
饗介「ああ!」

ハエコンビはみゆうを見据えた。

みゆう「え…ど、どうしたの?」
饗介「これからみゆうちゃんと遊ぶことになりました〜。まずは着せ替えごっこ〜。洋、押さえろ!」
洋「了解!」

みゆうは洋によって羽交い絞めにされてしまった。

みゆう「や…やめてよ…。」
饗介「はーい、じゃあ脱ぎ脱ぎちまちょうね〜。」

恐怖のあまり泣きそうになるみゆうに構わず、饗介はみゆうの服を脱がし始めた!

みゆう(こ…怖い…。)

そして、抵抗できないみゆうはあっさり下着姿にされてしまった。

饗介「かわいい下着着ていまちゅね〜。じゃあ次は下着を脱ぎまちょうね〜。」

笑顔でみゆうの服を脱がす饗介。しかし、異変はそのとき起こった。

みゆう「…きやい。」
饗介「?」
みゆう「みゆちゃん、きせかえきやい!」(「着せ替え嫌い!」と言っているらしい。)

何と、恐怖心と羞恥心、そして饗介の言葉遣いが各々でシンクロを起こし、みゆうが突如幼児退行を起こしてしまったのである!

みゆう「はなして!みゆちゃん、きせかえなんかちたくない!」
饗介「うるさい!黙れ!」

饗介は、みゆうの突然の変貌に腹を立て、ついみゆうに対して強い口調になってしまった。しかし、それは饗介と洋にとって最悪の選択となった。

みゆう「こ…このおにいちゃんたち…こわいよ…。」
饗介「は?」
みゆう「こわいよ〜!」

饗介の強い口調におびえたみゆうが洋の羽交い絞めを振り払い、暴れだしてしまったのである!

みゆう「こわいよ〜!こわいよ〜!」
洋「お…落ちつ…ごふっ!」
饗介「あ、洋!」
みゆう「たしゅけてぇ〜!」
饗介「ぎゃっ!」

ハエコンビは、みゆうに殴打され、あっさり気絶した。しかし、みゆうは止まらなかった。

みゆう「こわいよ〜!こわいよ〜!」

それからしばらくして、光彦とまゆりが現場にたどり着いた。

光彦「みゆう、大丈夫か…?」

そこで2人が見たものは…

みゆう「こわい…ひっく…えっえっ…。」
饗介&洋「……………。」

下着姿で泣きじゃくるみゆうと、ボコボコにされて気絶する饗介と洋であった。

光彦「みゆう、おい!おい!」

光彦が大声をかけ、やっとみゆうは通常に戻った。

みゆう「あ、あれ…?ご主人様?」
光彦「おお、気がついたか!」
みゆう「あれ…?何であたし…こんな格好で…?」
まゆり「とりあえず、あいつらが気絶しているうちに逃げましょう!」
光彦「それがいいよ。…まず服を着て。」

かくして、光彦とまゆりはみゆうを取り戻すことに成功した。
そして帰り道。

光彦「…じゃあ、そのことは全然覚えてないんだな。」
みゆう「うん、ハエの人に服を脱がされたことまでは覚えているんだけど…。」
まゆり「…どうやら、幼児化すると記憶を失うようですわね…。」
光彦「そのようだな。」
みゆう「どうしたの、2人とも?」
光彦「…いや、何でもない。」
みゆう「?」
光彦&まゆり(みゆう、恐るべし!)

一方そのころハエコンビは…。

饗介「…いててて…ってあ!」
洋「うーん、どうしたんだ?」
饗介「みゆうちゃんに逃げられた!」
洋「何!くっそー…。」
饗介「あそこで幼児化されるとは…誤算だったぜ…。」
洋「全くだ…。」
饗介&洋(みゆうちゃん、恐るべし!)

形はどうあれ、敵&味方両方に強いインパクトを植えつけたみゆうであった。

おわり


純粋な意味でのみゆうの幼児化がメインテーマなのは初めてですね。けっこう面白いです。


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