夢追い虫カルテットシリーズ

VOL.42「マイフェアなたねちゃん」

D.F.隊員「アリのかつみ」には気になることがあった。それは後輩である「アブラムシのなたね」のことだったのだが…

(更衣室にて。かつみとなたねは下着姿になっている。)

かつみ「……………。」(なたねをじっと見ている)
なたね「どうしたんですか?ボクがどうかしましたか?」
かつみ「いや、別に…。」
なたね「?」

(その後、普段着に戻る2人。)

かつみ「……………。」(なおもなたねをじっと見ている)
なたね「ホントどうしたんですか、かつみさん?」
かつみ「いや、ね…。」
なたね「?」

どうしても気になることが頭から離れないかつみは、そのことをサポートチームのリーダー「ハサミムシのはるこ」に相談することにした。

はるこ「相談って何?」
かつみ「あたしの後輩のことなんだけど…。この前なたねって子が配属されたんだけどね…。」
     (はるこになたねの顔写真を見せる)
はるこ「へえー、かわいい子じゃないの。」
かつみ「でしょ?でもね、なたね、自分がかわいいって自覚がないらしいのよ。」
はるこ「それはどういうこと?」
かつみ「あの子ね、自分のこと『ボク』って言うし…。」
はるこ「それは確かに問題ね。」
かつみ「それに…。」

かつみの様子が少し恥ずかしそうになった。

かつみ「着る服とか…とにかくファッションが全部そんなにかわいくないのよ。」
はるこ「なるほどね…。」
かつみ「はるこさん、なたねにおしゃれとか教えてやってくれない?」
はるこ「うーん、いつもジャージのかつみからそんなせりふが聞けるとはね…。」
かつみ「そう、なんでだろ〜ってバカー!」(テツandトモのまねをしてしまった)

のりツッコミをしてしまったかつみは顔を赤くしてすねた。

はるこ「…ごめんごめん。まあでもそういうことだったらいいわ。わたしでよかったら協力するわ。」
かつみ「ありがとう!」

というわけで、はるこによる「なたねを女の子らしくするぞ計画」は動き出した。
まず、はるこは、洋品店や化粧品店を下見して、どういったものが似合うかを少し考えた。
その後、かつみに話がある旨をなたねへと伝えてもらった。ただ、伝える際には「なたねを女の子らしくするぞ計画」については伏せてもらった。
そして決行当日。はるこはなたねの部屋を訪れた。

なたね「あ、こんにちは。かつみさんから話は聞いています。」
はるこ「じゃあおじゃまするわ。」

はるこは入ると、その目的をなたねに告げた。

はるこ「実はね…わたしはかつみさんに言われてあなたを女の子らしくするために来たのよ。」
なたね「ボクを…女の子らしく…?」
はるこ「ほら『ボク』って言ってる。そんなんじゃだめよ。」
なたね「あ、あの…。」

戸惑うなたねをよそに、はるこはなたねの洋服ダンスを覗いた。

はるこ「うーん、全然女の子らしい物がないわね…。服も…下着も…。」
なたね「いいじゃないですか、別に!」

なたねはぷんぷんした様子を見せた。考えてみれば当然のことだが…。

はるこ「ごめんなさいね。でもここまで女の子らしいものがないのは問題よ。」
なたね「うう…。」
はるこ「じゃあわたしが似合いそうな洋服を買ってあげるわ。ついてらっしゃい。」
なたね「え、あ、はい。」

こうして、なたねははるこに引き連れられて洋品店へと向かった。
まず…

はるこ「はい、これなんかいいんじゃない?」
なたね「これ…ボクに似合うの?」

はるこが手渡したのは、暗めの灰色を基調とした燕尾付ジャケット&おそろいの色のスカートであった。

はるこ「似合うと思うわよ。」
なたね「でも…ボク…。」
はるこ「大丈夫。きっと似合うから。自分を信じて。」
なたね「うん…。」

なたねは、はるこにほだされ、その服をもらった。続いて…

はるこ「ついでだから、かわいい下着も買ってあげるわ。」
なたね「え、ええっ?」

とまどうなたね。しかしはるこは…

はるこ「あなた、かわいいのだから下着あんなかわいくないの着ていちゃおかしいわ。
     …これにしましょう。」
なたね「は、はるこさん。これは…。」

ノリノリでなたねにアンダースコートを思わせるフリフリのショーツと、それと同色のブラジャーを渡した。

なたね「ボクには…ちょっと…。」
はるこ「大丈夫大丈夫。さあ、買ったら帰りましょう。まだやることがいっぱいあるわ。」

こうして、服を仕入れた2人は、職員寮のはるこの部屋へと向かった。そこでの様子を見てみよう。

はるこ「じゃあ早速今日買った服に着替えて。」
なたね「えっ?」
はるこ「いいからいいから。」

はるこの指示で、なたねは下着と服を買ってきたものへと着替えた。続いて…

はるこ「着替え終わったわね。じゃあ、今度はお化粧をしてあげるわ。」
なたね「え、お、お化粧?」
はるこ「初めは何もわからないと思うから、わたしが自分で考えてするわ。動かないでね。」
なたね「う、うん…。」

そして、はるこの手による化粧が終わった。

はるこ「これで完成。さあ、鏡で自分の姿を見てみなさい。」

なたねは、自分の姿を鏡に映してみた。すると今まで感じたことのない不思議とほんわかした驚きが彼女を包んだ。

なたね「これが…ボク…?」

鏡の中に映っていたのは、今まで見たことのない美少女であった。それは確かになたね自身であったのだが、そうと思わせない何かがその鏡の中の少女にはあった。

はるこ「すごくかわいいわよ。」
なたね「何か…ボクじゃないみたい…。」
はるこ「そう。あなたは今まで自分の魅力を封印していたの。わたしはそれをほんの少しだけ引き出
     したのよ。」
なたね「ボクの…魅力…?」
はるこ「女の子らしくなるためにはまだまだいろいろすることがあるわ。」

その後、はるこは女の子らしい言葉遣いや、自力で化粧をする方法をなたねに授けた。

そして数日して。D.F.隊員のかつみ・ともみ・あやの3人は、はるこによってとある場所に集められた。

あや「なたねがイメチェンしたんだって?」
かつみ「ええ、そうよ。」
ともみ「それは楽しみなこと…あっ、来ました。」
はるこ「それでは、いらっしゃい。」

はるこに手招きされ、なたねは姿を現した。

あや「あっ!」
ともみ「これは…。」
かつみ「すごいわ…。」

新たななたねの姿を見た3人は驚いた。しかし、更なる驚きはその直後にやってきた。

なたね「こんにちは。あやさん、ともみさん、かつみさん。今のわたしはいかがですか?」

言葉遣いもしっかり変わっていたのである。

あや「今までのなたねと全然違うわ…。」
ともみ「すごい…。」
かつみ「はるこさん、大成功よ!本当に女の子らしくなってるわ!」
はるこ「そう…それはよかったわ…。」

喜び合う4人。しかし、当のなたねはその様子をあまり浮かない様子で見ていた。

かつみ「どうしたの、なたね?」
なたね「あの…はるこさんやかつみさんの行為は大変ありがたいのですが…。」
はるこ「で?」
なたね「でも、これは本当のボクじゃないような気がするんです。」

思わぬ一言に、計画進行役であったかつみとはるこは戸惑った。

はるこ「どういうこと?」
なたね「確かにボクはこうして女の子らしいしぐさや見た目を手に入れました。でもそれは外見だけのものです。ボクの中身は変わっていないんです。その中身の声がこう言うんです。『これは本当のお前じゃない』って。」
かつみ「そ、そんなことないわよ!」
なたね「でもボク決めたんです。これからは自分らしく生きるって。だから自分のことも『ボク』って言う
     し、かわいくない服も着ます。だから皆さんには本当のボクを温かく見守ってほしいんです。」
かつみ「でも…。」

とここで、はるこがかつみを制して話し始めた。

はるこ「分かったわ。あなたがそう言うのなら、好きにすればいいわ。でもこれだけは忘れないで。
     あなたは本当にかわいい女の子なの。そのかわいさをどう磨くかはこれからのあなたしだい
     よ。」
なたね「はい!ありがとうございました!」

こうして「なたねを女の子らしくするぞ計画」は幕を閉じた。しかし、この話にはまだ続きがあった。

しばらくして、かつみがなたねの部屋を訪れると、なたねは化粧をし、はるこに買ってもらった服を着て鏡の前でポーズを取っていた。

なたね「バキューン!」

なたねは銃を打つような格好をしていた。どうやら一人遊びをしていたようであった。

かつみ「な、なたね?」
なたね「かつみさん?み、見ましたね?」

どうやら「女の子らしさ」にも少し未練があるようなのであった。

おわり


なたねの「ダイヤの原石度」がある意味「夢カル」で一番高そうだったので、この話が書けました。


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