最近、巷を賑わすニュースの中に、ある不思議なものがあった。
それは、殺虫剤会社が何者かによって襲撃され、建物のガラスが割られたり、中が荒らされたりするというものであった。
普通、こういった事件では、金銭を要求するなどの実利的な犯行声明文が出るものであるが、この事件においては、そういったものは一切無く、ただ「命の尊さの分からぬものに天誅を下す」という謎めいた手紙が残されているのみであった。
元昆虫であるカルテットの4人もこのニュースは当然気になっていた。だが、カルテットの知る限りではそういう志を持ちそうな者は思い浮かばなかった。
そんなある日のこと、日高家に一人の訪問者が、いかにも慌てていますといった様子で転がり込んできた。
さとみ「お姉ちゃん!大変だよ!」
元呪詛悪魔で、今は更生し、守護天使見習いをしているひとみの妹・さとみであった。
みゆう「さとみちゃん?」
まゆり「久しぶりですわね。」
ひとみ「どうしたのですか、さとみちゃん?」
さとみのあまりの慌てぶりは、当然カルテットの心に疑念を呼び覚ました。
さとみ「あ、あのね、最近頻発してる殺虫剤会社襲撃事件なんだけど…。」
あすか「ああ…。あれですか…。」
さとみ「あの事件を起こしているのが昔のわたしたちの巣の仲間たちだってことが最近分かったの。」
まゆり&あすか&みゆう&ひとみ「え、ええーーっ!」
衝撃の事実に、カルテットは思わず絶叫した。
ひとみ「そ、それはどういうことですか!」
さとみ「あのね、話せば長くなるんだけど…。」
(これよりさとみの回想)
少女「あなた、さとみちゃんね?」
さとみ「そ、そうだけど…。」
少女「わたしはあなたと同じ巣の出身の者よ。」
さとみ「(匂いを入念に嗅ぎ)確かにこの匂いはわたしの巣と同じね。でも何の用なの?」
少女「実は、今わたしたちは女王様を中心に決起する計画を練っているの。」
さとみ「決起?」
少女「そう。わたしたちの巣を滅ぼした憎き殺虫剤会社に天誅を下すの。」
さとみ「え、ええっ!」
少女「さとみちゃん、あなたの評判は聞いているわ。人間に復讐するために一生懸命努力しているそうね。どう、わたしたちの計画に参加しない?」
さとみ「せっかくだけど…その計画はやめたほうがいいよ。」
少女「(動揺して)え、何で?」
さとみ「わたし、ひとみお姉ちゃんに教わったの。人間にもいい人はいるって。そしてピュアな想いは大きな力になるって。ねえお願い。考え直してよ。」
少女「(怒りを露にしながら)う…う…。分かったわ!もうあなたなんかには頼まない!勝手にしなさい!」
さとみ「…というわけなんだけど…。」
ひとみ「そ、そんな…。」
ひとみは悲しかった。犯罪行為に手を染めるかつての仲間たちの姿を想像すると胸が痛んだ。しかもその仲間というのは、自分の母親や姉妹なのである。ひとみは何とかやめさせたいと思った。
ひとみ「止める手は無いのですか?」
さとみ「わ、わかんないよ…。」
2人は途方に暮れ、真っ暗な気持ちになった。
だが、不意にひとみはあることをひらめいた。
ひとみ「ねえ、ひどいことを聞くと思うんですけど…。」
さとみ「何、お姉ちゃん?」
ひとみ「あたしたちの巣を滅ぼした殺虫剤の製造元はどこなのですか?」
さとみ「確か『地球化学工業』だったと思うけど…。」
ひとみ「やっぱり…。めぼしい殺虫剤会社はもうほとんど襲撃されましたけど、そこだけ残っていて何か変だと思っていたんですよ。」
さとみ「ということは…。」
ひとみ「そう。きっと次はあそこを狙いますよ。しかも最後だからかなり派手なことをする可能性もあります。」
ひとみの言葉に、さとみは顔が青くなった。
さとみ「そ、それって大変じゃない!」
ひとみ「さとみちゃん、止めに行きましょう!地球化学工業の本社で待ち伏せするのです!」
さとみ「うん!」
そう言うが早いか、2人は外へと飛び出していった。
まゆり「行ってしまいましたわね…。」
みゆう「うん…。」
残された3人のうち、まゆりとみゆうの2人はあっけに取られていた。
しかし、あすかは違った。あすかは、少し考え込む様子を見せた後、不意に何かを思いついたような顔つきになった。そして…
あすか「ご主人様には…『遅くなっても心配しないで下さい。』と…伝えて…下さい…。」
そう言って外へ出て行ってしまったのであった。
まゆり&みゆう「?」
ますますあっけに取られる残された2人であった。