4人がこのような話をしているその頃、なのははタクシー運転手・松井五郎氏の本拠地の春野タクシーの営業所の前にいた。
なのは「いよいよですね。」
なのはは覚悟を決め、営業所の中に入った。そして、そこでやや意外な情報を得た。
この営業所の受付嬢からの情報によると、松井氏は少し前に退職し、現在は営業所の近くで隠居生活を送っているとのことであった。
そのことを聞いたなのはは、松井氏の現住所を聞き出すと、早速そこへと向かった。
(いよいよ松井さんに会える…。)
なのはは、期待と不安が入り交じった複雑な気持ちを抱いていた。それ故、松井氏の自宅の前まで来ながらもチャイムを押す勇気がわかず、物陰でじっと松井氏が出てくるのを待った。
そして待つこと数時間。もう夕方になろうとする頃、
松井さん「では散歩に行ってくるよ。」
松井さんの奥さん「行ってらっしゃい。」
ついに松井氏が姿を表した。
(ああ、松井さんだ…。)
白髪混じりの頭や、しわが目立つ顔に33年という年月を感じさせたものの、その優しい雰囲気は33年前そのままであった。
なのはは、松井氏の姿を見ることができてうれしかった。しかし、
(どうやって話しかけたらいいのでしょう…。)
33年という年月の長さと照れを意識するあまり、なのはには話の糸口が見つからない。
そのため、なのはは松井氏の後をつけた。
しかし、数十分たってもなのはには決心がつかなかった。人間はいざとなるとなかなか行動ができないものだが、それは守護天使も同じである。
(これではまるでストーカーです…。)
なのはが次第に自己嫌悪に陥りかけているその時、事件は起こった。
松井氏が柄の悪そうな若者たちとすれ違う際、松井氏と若者たちの一人との肩が触れあった。
松井さん「あ、失礼。」