いよいよ初夏の声が聞こえる頃がやってきた。
この時期ともなると、空気も暖かくなり、虫達もよく動けるようになる。と同時に、殺虫剤のCMも増えてきた。
この日のテレビでも、殺虫剤のCMがしばしば放映されていた。かつては、そういうCMのたびに
ひとみ「かわいそうです。」
みゆう「やめてあげて。」
というような声が日高家の中に飛び交っていた。しかし、さすがに最近は四人とも慣れてきたようであった。
しかし、この日だけは違っていた。
この日、新しい殺虫剤がCMにお目見えした。それは、ゴキブリを泡で包んで固め、手に触れることなく捨てることができる、という触れ込みの物で、かなり「ゴキブリは嫌い!」を前面に押し出した物であった。
これを見たあすかは、
あすか「ひ…ひどいです…。」
と言ってリビングルームから消えてしまった。
そして、扉の向こうからはあすかのすすり泣く声が聞こえてきた。
残された四人は心配になった。
光彦「CMには慣れてきた、って思ってきたけど…。」
まゆり「やはり内容があすかにとって残酷だったのでしょう。」
光彦「まあみんななぐさめてやってよ。」
ひとみ「分かりました。」
みゆう「うん、あたしもあすかちゃんの気持ち分かるから…。」
まゆり「立ち直ってくれれば良いのですが…。」
光彦は、とりあえず仲間同士に任せてみることにした。
三人は、寝る前にあすかを励ました。しかし、あすかの気持ちは晴れなかった。
そのせいか、あすかは夢を見た。
夢の中で、あすかは殺虫剤に追われていた。そして、泡が発射され、あすかは身動きが取れなくなり、呼吸も封じられてしまった。