「ここは…」
そらのテレポートによってやってきたのは、雪の降りしきる公園だった。
そこは、見覚えがある場所だった。
「ふう。さすがに、これだけの人数を移動させるのは苦労したぜ」
「ご苦労様でした、そらちゃん」
「なに、いいってことよ。おいらは、素直な、サキミの使い魔だからよ」
サキミの肩に止まるそらが、明らかに含みのある発言をする。
こいつ……。
「そっかぁ〜。サキミは、優秀な使い魔を持って、幸せだなぁ〜」
「え、えぅ〜!? わ、私、ですかぁ〜?」
「当たり前、だ、ろう!」
「えぅ〜」
と、逃走を試みたサキミだったが、「そっかぁ〜」の辺りから距離をつめていた俺の間合いから逃れるはずもなく、
「せいや!」
肩に乗っているそらごと、銀白色の地面に背負ってたたきつけた。
「えぅ!」
「ぐえ〜!」
そこからまとめて、絞め技を食らわした。
「おらおらおら!」
「えぅ〜。やめてくださいぃ〜」
「は、早く離せ!」
「もうああいうことを言わなければな」
「えぅ〜。私、ただの巻き添えじゃないですかぁ〜」
「使い魔の悪態は、主人が責任を取るのが当たり前じゃないか」
「そ、そらちゃんのばかぁ〜」
「あ、あの…」
「おっと」
エリナの声を聞いて我に帰った俺は、素早くサキミたちから離れて、何もなかったかのように身を整える。
「おほん。さて、さっさと行こうか」
「えぅ〜」
「おいらたちは無視かよ!」
「おっ、そんなところで寝ていると風邪引くぞ?」
なんか、このやり取りが日常化しそうだなと思いつつ、俺とエリナはサキミたちが立ち上がるのを待って、本来の目的である、エリナのご主人様の元へと向かった。
公園から出てからは住宅地が続き、冬休みのお子ちゃまどもが雪合戦をしていた。
昔はよくした何気ない遊びが、今じゃすごく楽しそうに感じた。
…俺も、あの人としたっけな。
「田舎だな…」
そうほざいたのは、カラス野郎だった。
「そんなことですよ。とても素晴らしい場所ですよぉ。ねえ、エリナさん?」
「そう、ですね。ここは、とても素敵な所、でした」
動物のころは、いい思い出がたくさんあって、楽しかったです。
エリナの表情は、明らかにそう思っていた。
今は、思い出の場所でさえも、辛いものに変わっているのだろうな。
可哀想、だなんて思わないけど、運が悪いとは思う。
くしゅん。
どこから、可愛いくしゃみが聞こえてきた。
少なくとも、俺とそらのくしゃみじゃないし、エリナはしていない。
となると…。
くしゅん。
「うう、寒いですぅ〜」
サキミが、体を両手で覆うように歩いていた。
今気づいたのだが、雪国を歩くにはふさわしくない格好をしていた。
俺は、元々こちら側の人間だったから、東北方面に行くということを受けて、今暮らしている場所の格好よりも暖かい格好をしていたからいいものを、サキミの格好は、明らかに都会の服装だった。
「お前な、雪国をなめんなよ」
「だってぇ〜。こんなに寒いなんて思わなかったんですもん〜」
南国の人が北国に来たときのお決まりの台詞だった。
「めいどの世界には、四季はあるけど、冬のときはこんなに寒くはないな」
「…北極圏に行く守護天使は大変だろうな」
お子ちゃまが行ったら、間違いなく凍死するだろうな、サキミみたいな考えだったら。
まあ、転生するほうも、動物のときに感じた寒さで行くだろうから、大丈夫だろうとは思うけど、南国の人が北国に引っ越して、それで、南国の感覚のままでご主人様のところに転生したら、かなり大変だと思う。
「……着きました」
そうこうしているうちに、エリナが暮らしているアパートに着いた。
俺のいるアパートよりもぼろくて、本格的な冬が着たら倒壊するんじゃねえのと思うぐらいに、やばい。
こういうのもなんだが、アパートはもう少しいいのを選ぼうぜ。
「ご主人様は、お部屋にいると思います」
「じゃあ、エリナは無断で出てきたのか?」
「……はい」
「大抵、援護天使に助けを求めるときは、自分のご主人様に無断で来るもんだ」
「そうでないと、絶対に無理ですから」
確かにそうか。
かなり嫌だが、俺がもし、エリナのご主人様の立場に立ったときに、自分の言いなりになるサキミを、そう簡単に遠くへ行かせることはしないし、むしろ、軟禁状態にするだろうな。
そうなると、数少ないチャンスで逃げ出す以外に、助けを求める方法はないな。
「……あの、大丈夫、ですよね?」
「はい。安心してください。不幸の守護天使を幸せにするのが、援護天使のモットーですからね」
「幸せ、か」
「うん? どうした?」
「いや、なんでもない。さてと、エリナのご主人様の面、おがみに行こうかね」
「えぅ〜。私の指示に従うって約束じゃないですかぁ〜?」
「おっと、そうだった」
何気に、ここに来る前にそんなことを言われたような気がする。
さすがに言うことを聞いておかないと、あとが怖い感じがするから、大人しく従っておこう。
「では、まずはエリナさんから先に入ってください。様子を見て、私たちが行きますので」
「えっ? 助けてくれるんじゃ、なかったんですか?」
「もちろん、ちゃんとめいどの世界には帰してあげますよ。ただ、お別れを言った後です。いくらひどいことをするご主人様でも、一応は、言ってあげたほうがいいんですよ。それで、自分のやったことを反省するご主人様もいましたから」
要は、別れという心の中のキーワードを甦らせて、あの頃に戻って、仲直りをさせてあげようということらしい。
エリナのご主人様に、昔のような気持ちがあれば更正するだろうが、恐らくは無理だろうと思う。
俺の経験上、ああいう輩は実際に痛い目にあって、改めて思うんだ。
子供が自分で痛い目を会って覚えるように、無理やり引き離れて、エリナの重要性を感じると、俺はそう思う。
案の定、
「エリナ!」
「い、いや〜!」
ドアの向こう側で、キレてしまったエリナのご主人が、エリナに危害を加えようとしていた。
「さて、どうするかね? サキミ」
「も、もちろん、助けに行きますよ!」
「1人での初仕事、がんばれ」
「うん! では、突撃!」
……今、とんでもないことを聞いたような気がする。
かなりの嫌な展開を創造して、一緒に突入した。
<続>
後書き♪
K'SARS「さて、次はいよいよ、サキミと浩人の戦闘シーンだな」
カナト「なんか、中途半端に終わったね」
ミナト「でも、これ以上書いたらすごく長くなりますから、このぐらいがちょうど良いんじゃないんですか?」
K'SARS「さすがミナトさん。よくわかっていらっしゃる」
カナト「でも、サキミさんがいなくなる話は、まだ先になるんだね?」
K'SARS「まあ、そうなるわな」
ミナト「サキミさん好きには、少しだけ救いになりましたわね」
K'SARS「つうか、ここ最近、サキミがあまり目立っていない感じがいなめない」
カナト「自分で書いておいて、そういうことを言う?」
ミナト「まあまあ、いいじゃないですか。それが、作者さんなんですから」
K'SARS「なんかけなされた感じだけど、まあ、いいや。とにかく、早くサキミオリジナルを登場させないと」
カナト「あれ? 亡くなったんじゃないの?」
K'SARS「勝手に殺すな」
ミナト「でも、そう思われた方も多いと思いますわ」
K'SARS「ったく、俺はみーちゃん以外は生かしてあるの」
カナト「ということは、あの人も?」
K'SARS「…それは、また後々な」
ミナト「今回は、カナトくんですよ」
カナト「そっか。……でははん!!」