ガラッ
声「たーだいまー!」
引き戸が開き、男性の声が響いた。
見た所、真吾と同じ20代。
ハデなシャツとジーンズを着こなす、見るからにガラの悪そうな青年だ。
龍雄「亮!店の手伝いもせずに、また遊びに出やがったな!」
亮「うるせーな!そんな誰でも作れるようなラーメン作んのなんざ、もう飽き飽きしてんだよ!」
龍雄さんが大きな声で怒鳴ると、亮と呼ばれたその男は叫んだ。
ましろ「・・・・・」
その亮のセリフを聞いた瞬間、ましろの表情が変わった。
ましろ「それでは・・・作ってもらいましょうか・・・その・・・誰でも・・・出来るような・・・ラーメンを・・・」
亮「・・・ま、そこまで言うんなら、つくってやってもいいぜ」
そう言って、亮は準備に取り掛かった。
亮「そらそらーっ!」
どうやら手さばきはよいらしく、あっという間にラーメンは出来上がった。
亮「へいっ!お待ち!」
ましろの前に、亮の1杯が出された。
ましろ「・・・・・」
しかし、ましろは1口も口にしようとしない。
亮「どうした?早く食わねえと麺がのびるだろ」
亮がましろに訪ねた瞬間、ましろが口を開いた。
ましろ「だめです・・・作り直して・・・ください・・・」
亮「なにぃ!?」
亮は顔をしかめた。
亮「てめぇ!食いもしねえでダメだなんて、わかんのかよ!」
龍雄「わかるんだよ!」
亮の叫びに、龍雄さんが横槍を入れた。
龍雄「見てみな、おめえのラーメンを・・・茹で時間を見てねえから、麺の固さが中途半端・・・麺の湯をちゃんと切ってねえから、折角のスープが薄くなっちまってる・・・そんなラーメン、誰が喜んで食うってんだ」
ましろ「あなたは・・・お父さんの・・・ラーメンを・・・何もわかっていません・・・」
ましろが冷たく一言を突いた。
亮「そんなに言うんだったら、てめえがやってみろよ、あぁ!」
ましろ「・・・わかりました」
亮「ハァ!?」
亮はおそらくハッタリをかけていたのだろう。
だが、日々ラーメンの研究をしているましろの実力を知らないのが、彼にとっては災いとなった。
そして、丹念に手をかけた、ましろの1杯が出来上がった。
ましろ「どうぞ・・・」
亮「・・・・」
恐る恐る亮は、1口麺をすする。
亮「!!」
亮の身体に衝撃が走った。
亮「・・・・・う、うめえ」
認めたくなかったのだろうが、亮はそう言わざるをえなかったのだ。
亮「く・・・て、てめえ・・・!」
亮はましろを睨み付ける。
ましろ「悔しい・・・ですか?・・・ならば・・・勝負しても・・・よろしいですよ」
ましろは不敵な笑みを浮かべた。
亮「お・・・おぅ、やってやろうじゃねえか!今度は本気を出してやってもいいぜ」
ましろ「ただし・・・お父さんの作った・・・麺やスープを・・・・使わずに・・・です」
亮「な・・・なんだと!?」
ましろのセリフに、亮は顔をしかめた。
ましろ「1ヶ月だけ・・・待ちます・・・その間に・・・お父さんの味を・・・研究し・・・そして・・・ちゃんとした・・・自分の味を・・・作ってください」
亮「・・・・・・」
ましろ「自信が・・・おありのようでしたけど・・・やはり・・・勝てないとわかって・・・逃げますか?」
そのセリフに、亮が再びましろを睨み付けた。
亮「う、うるせえ!誰が逃げるっつったよ!そのケンカ、買ってやるぜ!」
ましろ「・・・・みなさん・・・聞きましたね?」
亮「?」
ましろが視線をオレたちに向けた。
真吾「ああ」
ちえこ「聞いちゃったかも〜」
りな「この耳でしかとね」
かすみ「私も聞きました」
ミーコ「りょーおにーちゃんのラーメン、たのしみだねっ」
ジョニー「さーて、どうするのかな?亮とやら」
セティ「ま、期待しないでおくわ」
フリード「逃げたら承知しねえからな!」
オレたちは龍雄さんにお金を払い、店を後にした。
真吾「ましろ、あれでよかったんか?」
オレの問いにましろはクスリと笑う。
ましろ「ええ・・・彼は・・・必ずやります・・・」