真吾「ふうっ・・・よし、これでいい」
最後の仕上げを終えたオレは額に残る汗をぬぐう。
真吾「失礼します」
店長「ああ、お疲れさん」
オレがバックルームを出ようとした時・・・
店長「ああ、山下君」
真吾「はい?」
店長がオレを呼び止めた。
店長「実は・・・君に頼みたい事がある」
真吾「・・・・・・ええっ!?」
真吾「帰りましたー」
かすみ「お帰りなさい」
かすみさんがニッコリ微笑みかける。
真吾「・・・・・」
しかしオレは沈んだ顔のまま、かすみさんの前を通り過ぎた。
かすみ「・・・?」
首を傾げるかすみさん。
そして、守護天使全員が頭に?を浮かべたまま、オレはテーフルの前に座った。
真吾「大変なことになった・・・」
ジョニー「どうしたんだ、一体?」
ちえこ「も、もしかしてアルバイトがクビ・・・」
りな「こらっ、ちえこ!!」
ちえこ「ひゃあっ!?ご、ごめんなさいかも〜・・・」
ちえこの発言をりなが止める。
真吾「来週から、オレの担当時間が深夜になってもーた・・・」
守護天使「ええっ!?」
8人は驚きの声を上げた。
そして、オレは深夜勤務の初日を迎えた・・・
真吾「じゃ、行ってきます」
かすみ「はい・・・」
セティ「気をつけてね、旦那様」
2人がオレを優しく見送ってくれた。
真吾「ああ、がんばるよ」
冷え込む闇の中、オレは自転車を走らせた・・・
店長「じゃ、よろしく頼むよ、山下君」
真吾「はい」
深夜の作業もいたってシンプル。
掃除・レジ接客・雑誌、雑貨、弁当やパンの入荷登録に整理・・・
そしてそれを朝イチの仕事に出る人たちで混む前に片付けなければならないのだ。
真吾「はあはあはあ・・・」
なかなか片付かず、焦るオレの額からはどっと汗が吹き出た。
やがて朝日が昇る6時半・・・
そして7時にはサラリーマン・OL・工事作業員など、仕事に出る人たちで店はお客様でいっぱいになってきた。
店長「山下君、レジを頼む!」
真吾「はい!こちらへどうぞ!」
オレは空いてるレジに入り、声を掛ける。
すぐさま、レジには数人のお客様が並んできた。
真吾「いらっしゃいませ、こちらのパンはあたためま・・・!」
突然オレの頭と視界がぼうっと歪む・・・
徹夜の作業で、こんな早朝になってから睡魔が襲い掛かるのだ。
工事員の兄ちゃん「おい、早くしてくれよ!!」
真吾「ハッ・・・し、失礼しました!」
お客様の声で、オレはなんとか意識を保った。
真吾「お疲れさまでした」
店長「これからこういう事が続くかもしれん、よろしく頼むよ」
真吾「はい・・・」
オレはヘロヘロになりながらも自転車をこぎだした。
真吾「帰りました・・・」
オレは重い体をなんとか下宿所の前まで運んだ。
ちえこ「お帰りなさいかも?」
玄関でちえこ達が迎えてくれた。
かすみ「あの・・・朝ごはんは?」
真吾「すいません、今はちょっと眠いんで・・・後でいただきます」
かすみ「はい、わかりました」
みんなが心配そうに見つめる中、オレは布団に潜り込んだ。
そしてこの日の深夜にはまた出勤する。
・・・・
真吾「帰りました・・・」
りな「お帰りー、今日講義あるんでしょ・・・大丈夫?」
真吾「ああ、ちょっと眠れば大丈夫やから」
りな「そう・・・」
寂しげなりなを尻目に布団に潜る。
その日の深夜、また出勤する。
・・・・
真吾「帰りました・・・」
ミーコ「お帰りっ、ご主人ちゃまっ!ねえねえっ、今さっき・・・」
真吾「ごめん!眠いんだ・・・」
ミーコ「ご主人ちゃま・・・」
悲しげなミーコを無視して布団に潜る。
来る日も来る日も、深夜出勤は行われた。
その最中、深夜担当に立候補した大学生が1人現れたが、途中で耐えられなくなり、やめてしまった。
睡眠という休息行動を無視する深夜の担当は、体力的にも精神的にもハードな仕事なのだ。
そして・・・
ピッ ピッ ピッ ピーッ!
声「ワーワー!キャー!」
スピーカーから喜びの歓声が響く。
オレはこの深夜勤務で今年の元旦を迎えたのだ。
真吾(オレも今年からがんばっていかなきゃな!)
気を引き締めたオレは、再び仕事を始めた。
真吾「いらっしゃいませ、新年おめでとうございます!」
・・・・
真吾「帰りました」
りな「お帰りー」
かすみ「お疲れでしょう?お布団の準備が出来てますので、ゆっくりお休みください」
下宿所に戻ると、2人が迎えてくれた。
今日は新年で気合が入っていたので、気遣うみんなを見れる余裕があった。
ジョニー「大丈夫か真吾?」
フリード「殿、無理だったらやめてもいいんですぜ」
真吾「ありがとう、でもオレだけが何もしないわけにはいかへんからな」
オレは横になりながら、笑いかける。
ミーコ「ご主人ちゃまぁ・・・」
迷惑をかけまいと、ミーコが部屋の隅で震えていた。
オレはつくづくひどいヤツやな・・・
疲れきっていたとはいえ、あの寂しさがトラウマのミーコをここまでにしてしまうとは・・・
真吾「大丈夫や、ミーコ・・・大丈夫やから」
オレはミーコに向かって、手を伸ばす。
ミーコ「ご主人ちゃまっ!」
慌てて飛び出したミーコがオレの手をぎゅっと握った。
ミーコ「ううんっ、ミーコこそごめんねっ・・・ご主人ちゃまの辛さも知らないで・・・」
真吾「ほんなら、これでおあいこや」
なでなで
ミーコ「・・・え、えへへ」
オレがミーコの頭をなでると、ようやくミーコが笑ってくれた。
ましろ「ミーコちゃん・・・元気になって・・・よかった・・・です」
洗濯を終えて、戻ってきたましろが微笑んだ。
真吾「今日はようやく非番が出たから、もう少し休んでからみんなで初詣に行こう」
オレのその一言でようやくみんなが笑顔になった。
セティ「・・・・・」
こくっ
オレの疲れて寝転ぶ姿を見て、セティが遠くで何かうなずいた・・・
数日後・・・
久々の休みを堪能したオレは、再び始まる夜勤の為、早めのシャワーを浴びて準備をした。
ジョニー「おい、真吾」
真吾「ん?」
ユニットバスを出て、身体を拭くオレに、ジョニーが声を掛ける。
ジョニー「セティを知らないか?晩メシの後から、姿が見えないんだ」
真吾「なんやと?」
オレは他のみんなに、その事を聞き出した。
かすみ「そういえば・・・セティさん、先日、私がアルバイトしている定食屋をやめたいと店主さんにお願いしていました」
真吾「それで?」
かすみ「店主さんはしぶしぶ了承していましたが・・・」
セティ・・・何をするつもりなんや?
りな「ほっとこーよ、どっか別の働き口でも見つけたんじゃないのー?」
真吾「だからって、黙ってバイトを変えようとするなんて・・・」
それもこんな夜遅くに・・・ヤバイバイトだったら非常にまずいことになる!
ミーコ「あっ、そーいえば!セティお姉ちゃま、何かおしゃしんのはっている紙に字を書いてたよっ」
真吾「え?それって・・・」
ちえこ「多分、履歴書ですかも?」
ミーコ「セティお姉ちゃま・・・なにかブツブツいいながら、書いてたのっ。『あたしがだんなさまをまもるんだ』とか・・・」
真吾「!!」
ミーコの言葉を聞いた瞬間、オレはハッと思い浮かんだ!
真吾「まさか・・・セティ!」
ダッ
オレは即座に部屋を飛び出す。
りな「ご、ご主人様?ちょっと!」
バァン!
オレは下宿所を飛び出した。
真吾「ハッ・・・ハッ・・・ハッ・・・ハッ・・・!」
オレは全力で自転車をこぎだした。
そして辿り着いた先は・・・バイト先のコンビニ。
カチャ
男性「全く何を考えてるんだ?あの女の子は・・・」
女性「あれじゃ、落ち着いて買い物も出来ないわ、他のとこに行きましょ」
2人のお客様が、呆れ顔で出てきた。
間違いない・・・ここにおるんや。
真吾「セティ!」
オレはドアを開けた。
店員「あ、山下先輩!」
真吾「おお、安田か」
オレの1回生下のバイト仲間、安田がオレに寄ってきた。
安田「あの人、あたしも深夜担当に入れてくださいって言ってきかないんですよぉ」
安田が指差した先には・・・雑誌のコーナー付近でじーっと立っているセティがいた。
安田「女性は深夜は出来ないんですよ、と断っても、入れてくれるまで動かない!って・・・ずっとあの状態で・・・」
安田は頭を抱えている。
真吾「そっか・・・ごめんな、安田」
オレは安田に謝ってから、セティの方へ歩いていく・・・
真吾「セティ・・・」
セティ「あ、真吾!」
セティはオレを見て、ようやく笑顔になった。
セティ「待っててね真吾、ここの深夜担当はあたしが変わってあげるから!それで、真吾に楽を・・・」
真吾「セティ!もういい!」
セティの声を遮るようにオレは叫ぶ。
真吾「ごめんな・・・もういい・・・いいんだよ」
オレはそっとセティにささやく・・・
セティ「真吾・・・」
セティが肩を落とした。
セティ「もしかして、あたし・・・迷惑だった?」
真吾「ち、違う!セティのやってくれた事は嬉しい!せやけど・・・」
セティ「ごめん、旦那様・・・あたし、帰るね!」
セティはオレの横を抜けて走り去る。
真吾「セティ!」
刹那!
ドンッ!
セティ「きゃあっ!」
セティはドアの前で誰かにぶつかって、転倒した。
同じく、深夜担当に回っていた店長だった。
店長「あたた・・・何なんだ?」
オレはこの隙に倒れたセティを起こした。
セティ「旦那様・・・あたし、あたし・・・」
真吾「もう、何も言うんやない、セティの気持ちはわかっているから」
オレの言葉を聞いて、ようやく落ち込んだセティが再び笑ってくれた・・・
店長「で、山下君。落ち着いたら、ちゃんと説明してくれるかな?」
店長と安田がオレとセティを見ていた。
真吾「あ・・・」
オレは、セティがオレの事を心配してくれていたこと・・・
そして、それがもとで、深夜の担当をしようとしていた事を、店長に話した・・・
店長「なるほどな・・・」
店長がこくりと頷く。
店長「確かに、女性のキミに深夜を任せる事はできん・・・だが」
セティ「?」
店長「今回だけ、採用させてもらおうか。キミの事を心配して駆けつけた山下君が、出勤早々汗だくだからな・・・」
真吾「う・・・し、しまった・・・」
オレは思わず顔をゆがめた。
店長「山下君と力をあわせ、がんばれよ」
セティ「はい、ありがとうございます!」
セティは元気いっぱいに返事を返した。
・・・・・
そして夜が明けた。
店長「おつかれさん」
真吾「お疲れ様です」
セティ「おつかれさまです」
店長がオレに話があると、セティを先にバックルームから出した。
店長「山下君、正直言って、セティさんの行為は店に多大な迷惑をかけた」
真吾「はい・・・」
オレは頭を下げる。
店長「だが、彼女のキミへの想いは本物だ、そのためにはどんな事でもするという強い想いがあった・・・」
真吾「店長・・・」
店長「彼女があの後、テキパキと働いてくれたから、今回は多めに見よう」
真吾「あ、ありがとうございます!」
オレは頭を上げた。
店長「彼女の想いを、無駄にするんじゃないぞ」
真吾「はい、ありがとうございました!」
オレは改めて頭を下げた。
やがてオレがコンビニから出ると、玄関前ではセティとみんなが待っていた。
真吾「さあセティ、みんなに謝るんや」
オレはセティに声を掛ける。
セティ「・・・迷惑かけて、ごめん」
セティは罰が悪そうに目をそらしながら言った。
かすみ「セティさん・・・あなたも、ジョニーさんも、フリードさんも、今では立派な山下家の一員なんですよ」
ちえこ「みなさん、家族として心配してたんですかも〜」
ましろ「ですから・・・1人で・・・ご主人様を・・・守ろうとしては・・・いけません」
りな「そうそう、抜け駆けはだめよ、セティ!」
ミーコ「こまったときは、いつでもミーコたちがいるもんっ!」
みんながセティに声を掛けた。
ジョニー「そういうこった、セティ」
フリード「殿だって、この仕事はやるべき事だからやってんだ、俺達がやっても殿のためにならねえ」
真吾「セティ、心配してくれてありがとう。オレはこれからもみんなの為に、自分のためにがんばるからな」
セティ「う、うん・・・ありがとう、みんな・・・」
顔をそらしていたセティはようやく満面の笑顔を見せる。
その日、セティはオレとかすみさんと一緒に定食屋の店主に再び働かせてもらうよう、願い出た。
店主「ハハハ、たぶんそうなるだろうと思ってたよ、また明日からよろしく頼むよ」
店主が大声で笑い、思わずオレとかすみさんもおかしくて笑う。
セティは顔を下げ、赤面した。