死の先に在るモノ

第6話「偽装者」(ライアー)

>現在
俺の名はレオン。前世は鳩……伝書鳩だ。
階級は10級神……一級守護天使の一つ上の階級だ。世界の管理に携わる守護天使は
「大天使」あるいは「神格者」と呼ばれる。大天使になってからは昇級試験を受けていないから、実際に俺の階級、と言うか能力がどのくらいなのかは知らないが。
今は「特務機関フェンリル」なんて因果な仕事をしている。
仕事の内容は「人間や守護天使に仇なす存在へと堕ちた『元』守護天使を始末する」事。
表向きは「メッセンジャー」に出向という扱いになっている「天界裁判所」の職員なんだが……
その実態は「特務機関フェンリル」の諜報部員だ。おっと、今はまだこれ以上言うべき時期ではないな。
まあ、この仕事を続けているのも……俺の愛すべき相棒、サキの為なんだがな……
しかし、なんか照れるな……自分の事を話すってのも……

今、俺は南米ラグリア国の、ある場所に来ている。
崩れた見張り台、朽ちた宿舎、錆びついた鉄条網、そして焼け焦げた洞窟……
かつての、あるゲリラの生活の場として賑わっていた痕跡が随所に見て取れる。
その合間を縫う様に、生命力の強い雑草や潅木が侵食をはじめている。
ここもいずれはジャングルに飲み込まれ、消えて行ってしまうだろう。
そうだ。ここが俺が産まれ……育った場所……その成れの果てだ。

 

>28年前
ここに奴が……「カルロス・J・コバヤシ」が来たのには、どんな経緯があったのか……俺は知らん。俺が産まれる前の話だ。話を聞こうにも、関係者の多くが消息不明で調査の目処すら立たなかった。
推測すると、政治に絶望したか……あるいは武力でこの国を改革しようとしたか……
ともかく30年程前、カルロスが25歳くらいの頃からここで反政府ゲリラの一員として生活するようになった事は確かなようだ。
学の有ったカルロスはそれなりの……偵察部隊の小隊長としての地位が与えられ、鳩達も伝書鳩としてゲリラ達の行動に一役買ったらしいな。

そんなある日、偵察に出ていたカルロスは一人の女の子を連れ帰って来た。
まあ、こう言っちゃ何だが……この手の話……年端の行かない子供が、ゲリラ兵志願者としてついて来たり、あるいは拉致されて来たりする事は全く珍しい事じゃないんだな。この国に限った事ではないが……
もっとも、このゲリラの長は子供の拉致を厳禁させていたがね。
で、カルロスはここの長に女の子を紹介すると、洞窟の入り口付近にある鳩の小屋に連れてきたんだ。
俺はその女の子が「無理して明るく振舞っている」と、そう思った。それが第一印象だった。
表面的には笑顔を見せていたが……寂しさとやるせなさに満ちた、その瞳が印象的だった。
これが……俺とご主人様との出会いだった……

これは又聞きになるのだが、カルロスがご主人様と出会ったのは、こんな経緯だったそうだ……


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