「そういえば、ここ……あの噂の彫刻家…だっけ、が、今仕事の依頼受けてるって屋敷だろ?」
これで、今日、二度目……。
どうして言葉は、こうも人の心情を変えてしまうのだろう。
真純お姉ちゃんが息を飲んだ音に、私は気付いた。それに連鎖して、昨日の記憶がよみがえる。あの時の、異質な感覚……。
「何の話だ? 武史」
「お前知ってるか? 今ここで仕事してる、藤原って彫刻家がさ、かなりいわく付きの男なのさ」
まるでその友人の吐いた言葉が何かのスイッチを押した様に、それまでこの場を包み込んでいた空気が、重く、湿っぽい物に変質していく。私は無意識に、両手でスカートの裾を握りしめた。
「ああ……聞いた事はある。地元じゃ、結構な有名人だろ。その男が、どうしたんだよ」
「お前、あいつを間近で見た事あるか?」
「……いや」
「俺はあるぜ。それがさあ、すっげえ薄気味悪い奴でさ。髭もじゃで、着てるのだって汚らしいし、近付いたらこっち睨み付けてくるんだぜ。アブねえよあいつ」
隣のお姉ちゃんを見るのが、恐かった。今どんな表情をしているだろう。彼女は深く俯き、顔が見えなかった。じっと耐えている様にも見える。
「まあ、そんなもんだろ芸術家なんて。凡人が考えないような事考えるのが仕事なんだから」
「見かけだけじゃないんだよ。『噂』が本当なら……あいつ、間違いなく変なんだ」
「うわさ?」
私たちの気持ちは、彼の問い直しに全て代表されていた。だが彼の動機が単純な相づちの意味を帯びていたのと違い、私はその問いかけを、昨日浮かんだ消えない疑問を解く鍵の様に思ったのだ。そんな当時の私の予感は、間違っていただろうか。真純お姉ちゃんは、この時どう思っただろう。聞きたいと思ったか、それとも自分の肉親を外見だけで中傷するような、心無い人たちが触れ回る他愛も無い噂話など、すでに慣れっこなのだろうか。こんな人がケンスケお兄ちゃんと友人関係だなんて想像も付かない。件の黒制服がこの場において彼だけにとっての真実を、口から滑らせようとする。
「あいつ、彫刻の像作るだろ?」
「ああ…。別に、それが仕事じゃねえか」
「『それ』が、動くんだよ」
私は、最初この人が何を言っているのか、分からなかった。ケンスケお兄ちゃんも不審に思ったのか、彼に聞き直した。
「……『それ』って、彫刻がか?」
まるで怪談話をしている最中の様に、黒制服が声を潜めてゆっくりと頷いた。
「あいつ、今までに結構な数の……人間の彫刻な? 金持ちとか美術館に頼まれて作ったらしいんだけど……。真夜中に、それが勝手に動き出すんだってさ」
動き出した『作品』は安置されている部屋を抜け出して建物中を徘徊し、そこで寝静まった人間を見つけては、その者の顔を舐め回すのだという。
「そして顔を舐められた奴は例外無く、一か月以内に近親者の訃報を聞く……事……に……」
「おい!」