「ロック、待ってくれ」
ロックに近づく。するとロックは振り向きざまに、腕を振りかぶってティコを思い切りぶん殴った。
「ぐっ!」
ティコは思わず地面に倒れ込んだ。
「かすみちゃんと二人で様子を見に来たんだけどよ……かすみちゃん、泣いてたぜ」
道路の向こうを見ると、駆け足で走り去っていくかすみの姿が小さく見えた。まさか、あれを見られたのか……。
「お前を一度でも信じた俺がバカだったよ。やっぱりお前は特別じゃねーか」
「違う、違うんだ……ロック」
「いいさ。美月がお前を好きだっていうんなら。その意志は尊重しなきゃなんねぇ。でも、こうなったらもう、俺はもう……必要ねーな」
「ロック、違います。誤解だ!」
「何が誤解だってんだ!!」
大声を上げたロックが、次に戸惑いの表情を見せた。後ろを見ると、美月が危なげな足取りで二人の元へ近づいていた。
「ロック……ごめんなさい……私……」
「美月……」
ロックは美月を見ると、辛そうに顔をそらした。
「ロック、話を聞いてくれ……大変なんだ、呪詛悪魔が……」
「知らねぇ! もう二人の問題だろ! おれは出て行く……もう戻ることもねぇ……じゃあな!」
「ロック! 待ってくれ! ローーック!」
「ロック、行かないで……ロックぅ!」
ロックはティコ達の呼びかけも聞かず、かすみの後を追うように走り去っていった。
美月は、膝を落として泣き崩れた。
「私の……私のせいだ……」
「ご主人様……」
「バカだ……私……」
ティコは、泣き崩れた主人の体を支えると、優しく声を掛けた。
「ご主人様は悪くありません。悪いのは、ご主人様に奇妙な暗示を掛けた奴らです」
「……暗示?」
「ご主人様。移動しましょう。ここは危険だ」
肩を支えながら主人を立たせると、ティコはかすみとロックが走り去っていった道を遠く眺めた。
二人の姿は、とっくに見えなくなっていた。
いつか、誤解を解かなければ……。いや、誤解を解いたとしても、自分たちを許してくれるだろうか。ロックは、戻ってきてくれるだろうか。
ロックに殴られた頬をさする。当面は、自分の力だけで美月を守らなければならない。ティコは悲壮な覚悟を固めていた。