『ナ……ニィィィィィ!?』
亜音速の速さで撃ち込まれたはずの弾丸が、ティコのかざした手の前で「静止」していた。
「アンチフォース・シールド……」
ティコは静かに声を吐いた。ティコは意志の力だけで弾丸を止めたのだ。物理法則を操作するほどの力を手に入れたティコに、もはや敵など存在しない。
『バガナァ! 死ニ損コナイニソンナチカラアルワケガァァァ!』
呪詛悪魔はわめき散らした。次の瞬間、目の前に居たはずのティコの姿が消え、慌てたジードが振り向くと、ティコは眼前数センチの至近距離にいた。強烈な衝撃を感じる。ジードは自分の腹に目を向くと、おきている現象に驚愕した。
あらゆる攻撃をはじき返す自慢の皮膚に、ティコの拳がめり込んでいた。皮膚はどろどろに溶け、みるみるうちに腹に大穴が空いていく。
『ギャアァアァァアァ! イデェェ! ナゼダアァッァア! オレノ皮膚ハドンナ物理攻撃ダッテハジクハズ……!』
続いて、胸に拳が食い込んだ。
『ギニャアアアアアアアアッッ!!』
ジードは後退し、逃げだした。それまであった余裕は完全に失われ、混乱と恐怖に飲まれていた。むろん、それを見逃すティコではない。
あっという間に追いつき、追撃をしようとしたそのときだった。
闇に染まる地面から、急に誰かが飛び出してきた。テレポートだった。飛び出してきた人影は、ティコの拳を腕で受け止めると、もう片方の手から燃えさかる炎を発し、ティコに浴びせかける。ティコはとっさに飛び退き距離を取ってそれから逃れた。
『グ、グレイ……カ! タスカッタゼェ!』
「フン、アンタもだらしないわね。こんなボウヤにやられるなんて」
飛び出してきた人物を見て、ティコは驚愕した。眼前にいたのは、自分と同じ歳くらいの少女だった。華奢でか弱そうな体とは不釣り合いなほどの、悪意に満ちた不敵な笑み。ティコはこの少女の眼光に射すくまれ、戦意を徐々に失っていく。
「今日はこのへんにしておきましょう。またね。守護天使ティコ。次こそ殺してあげるわ」
そう言うと、グレイと呼ばれた少女の呪詛悪魔は、ジードと共に黒い地面に沈んで、消えていってしまった。
闇の結界が解かれ、気がつくとティコは夜の道路に立ち尽くしていた。
「今のは……まさか……」
フェルジーンの力が体から引いていく……。それと同時に、それまで感じなかった全身の体の痛みがよみがえり、ティコは膝を折ってうずくまってしまった。
「くっ……ううう……」
だが、ここで傷が癒えるのを待つ時間はない。
「ご主人様を……捜さなくては……」