「あれぇ? お姉ちゃん?」
「あ……いや、そのぉ〜……こんにちはぁ☆」
真純お姉ちゃんが立っていた。立っていたというより、ドアを開けた拍子によろめいていた所を見ると、どうやらドアに密着してずっと聞き耳を立てていたらしい。
「入りたかったの?」
「え!? そりゃもう! 美月だけなんてずるいじゃない! あ、あのっ、初めまして! 真純っていいます☆ おに〜さん、お邪魔していいですかぁ☆」
そう言いながら、すでに部屋の中へ足を踏み入れているのがいかにも彼女らしい。
「まあ、好きにしてくれ」
あきれたような顔つきでユーイチお兄ちゃんは私たちから目をそらした。
「すっご〜い! 豪華な部屋☆ このベッドなんてまるで王宮貴族じゃな〜い☆」
部屋の中がいきなりうるさくなった。さっきまでの静けさがまるで嘘のようだ。
お兄ちゃんを見ると、彼の表情は早くも後悔の色を浮かべていた。彼女を制止する気も失せてしまったのか、さっきからずっと頭を押さえてむっつりしている。
「お姉ちゃん、嬉しそうだね」
「そりゃそうよぉ☆ ずっと憧れてたユーイチ様のお部屋に来れたんだも〜ん☆ あ、そうだぁ〜! ユーイチお兄さまぁ☆サインくださ〜い☆」
遠慮という文字とは100%無縁の彼女。芸能人でもあるまいし、サインまでねだる彼女についに耐えきれなくなったのか、ユーイチお兄ちゃんはようやく口を開けた。
「なあ……真純とやら。もう少し静かにできないか」
「きゃあああああああ〜☆ ユーイチお兄さまに名前呼んでもらっちゃったああああああ☆」
「……………」
固まってる……お兄ちゃんが固まってるよ……。
お兄ちゃんの一大ピンチを救うため、私は真純お姉ちゃんに昨日約束した事を切り出した。
「ねえお姉ちゃん。昨日粘土の工作の仕方教えてくれるっていってたよね」
「ん? ああ〜、覚えてる覚えてる。でもさ、場所がないじゃない。あ、ウチはダメよ。オヤジがウルサいから」
「そう言うことなら、父さんの工作部屋がある。そこを使っていい」
ここぞとばかりにお兄ちゃんが割り込んできた。
「ええ!? いいんですかぁ? ユーイチお兄さま!」
「ああ、どうせ長い間使われてない。粘土だって置いてあるだろう。好きに使ってくれ」
「いいの? お兄ちゃん」
「ああ、二人ともさっさと行って来い。俺はもう一人になりたい……」
両手で頭を抱えてうずくまるユーイチお兄ちゃん。こうしてみるとお兄ちゃんも結構面白い。
だが真純お姉ちゃんは容赦が無かった。彼女の一言が、彼の希望を無慈悲にうち砕く。
「もう少しここを見学してからにしま〜す☆」
ガタンッ!
お兄ちゃんが椅子から立ち上がった。
「どこ行くの? お兄ちゃん」
「お前らが出ていかないなら、俺が出ていく」
そう言った彼はドアに向かって歩き出していった。もしかしたら怒ってしまったのだろうか。
私は……悪くないよ?
止めようにも止められず、ついにドアが開かれようとした時……。
「この写真、なんですかぁ?」
空気が、凍った。