エイジ「ふぉ☆ ヌルいわっ!」
目の前でボールの進路を急転させられたにも関わらず、エイジさんはその小さな身体をあっという間にボールの前まで移動させて手首の回転だけで女王サーブを打ち返す!
真純「なんてことっ!」
打ち返されたボールは、正確に真純先生の死角をついていた。
ラケットを持っていない左手側のフィールドの端にボールが迫る。勝利を確信していた先生は、顔色を変えながらもバックスイングで辛くも打ち返す。
エイジ「がはは☆ ひっかかりおったわい☆ 食らえい! エイジスマ〜ッシュ!!」
威勢の良い叫び声とともに、エイジさんの目にもとまらぬスマッシュが炸裂する。
鋭い音とともに、ボールは真純先生のフィールドを叩いて彼女の横を通り過ぎていった。
歓声とどよめきの声が観衆から沸き起こる。そしてティコとロックは明らかに動揺の顔を隠せないでいた。最強と思われていた真純先生に、初めて難敵が立ちはだかったのだ。
真純「そ、そんな……。私の……無敵無敗を誇る女王サーブが……」
比較的表情は冷静だが、額に汗を浮かべ、先生は険しい目線をエイジさんに送っている。エイジさんの力量を測ろうとしているかのように……。
エイジ「がっはっは☆ もう終わりかのぉ?」
真純「ふっ。そう簡単にはいかないわよ。女王サーブの恐ろしさ、見せてあげるわ!」
2分後……。戦況は、著しく悪化していた。
現時点で0対5。真純先生の女王サーブは、エイジさんにとっては無力にも等しかった。あのボールにかけられた未知の回転を、エイジさんは常に手首を回す打ち方で確実に返している。
エイジ「がはは☆ なかなか良いサーブじゃが、ワシにとって脅威というほどではないな」
エイジさんは構えの姿勢を維持しながらも、その顔には余裕の笑みを浮かべている。
真純「そう……回転を読まれていたのね……」
対する真純先生は、至って冷静な表情で小さくつぶやいた。圧倒的不利の状況下においても、決して取り乱したりはしない。だがその一方で私たちは、あの真純先生が相手からたったの1点すらとれない事に、恐怖すら感じていた。
サーブは5点交代。サーブ権はエイジさんへと移る。
エイジ「ふっ。すでに伝説となったワシのサーブ……。受けてみるかの?」
小さな身体を卓球台から少し後退させ、エイジさんはラケットを真後ろに構える。そして左手に持ったボールを高らかに投げ上げた。
エイジ「心して受けるが良い!『エイジ☆ブラスター』!!!」
エイジさんのラケットがとてつもない勢いで振り出される。目で追うのが困難なほどだった。打ち出されたボールはエイジさんのフィールドのコーナー(角)でバウンドし、そして凄まじいスピードで対となる真純先生のフィールドのコーナーを狙って正確に飛んでいく。
真純「なっ!?」
コーナーへと放たれた球の軌道は、台の間近で構えを取っていた真純先生にとって迎撃の範囲には入らない。慌てて後ろへ後退するには遅すぎた。卓球台に対角線を引くような軌跡を描き、ボールは超絶の速さで真純先生の腰をかすめる。これでエイジさんは6点。あっという間の出来事だった。
真純「なんてスピードなの……」
その後も先生は、次々と彼女の死角をついて繰り出される『エイジ☆ブラスター』に翻弄され、あっという間に10点目を取られてしまう。さらに悪いことに、エイジさんの圧倒的な強さの前で、不運にも先生はその息を切らしつつある。疲労が出始めているのだ。それは、真純先生が今後さらに不利な状況へと追い込まれる事を意味していた。
今まで沈黙の中で戦況を見守っていたロックとティコが、ついに動揺と不安の声を顕わにする。
ロック「先生が……そ、そんな……」
ティコ「あそこまで……追い込まれるなんて……」
絶望しかける、ロックとティコを私は叱咤した。
私「落ち着いて! 二人とも……まだ、真純先生が負けた訳ではないでしょう?」
ロックとティコは、はっとした表情になる。
私「なら……信じましょう……私たちの先生を……」
ロック&ティコ「「は、はい!」」
私の言葉に二人は気を持ち直し、目の前の戦いを固唾を呑んで見守り続ける。
何故だろう……。真純先生を負かす相手を切望していたというのに、いつしか私は彼女を応援する側になっていた。
先生は、何か……覚悟を決めたようにつぶやく。
真純「……やはり……無理みたいね……」
エイジ「ついに観念しおったか!」
真純「……私の……真の力を解放せずに勝つのは……」
エイジ「何? がっはっは! 戯言を!」
真純「……できれば……解放したくは……なかったけれど……」
真純先生は余裕ぶちかましの表情を浮かべるエイジさんから、一旦飛び退き間合いを取る。そして、力を集中させた。