P.E.T.S[AS]

第5話「温泉旅行」

真純「超変身!!
一同『なにぃ!?』

先生は上着を脱ぎ捨て、Yシャツ姿になると、今まで私たちが見たこともない美しく大きな羽が、彼女の背中に生まれた………ような気がした。
それと共に、私たちにかかる重圧が、ふっと弱まった………ような気がした。
凄まじい、不安と動揺、そして恐怖という三重の重圧から解放され、初めてこの戦いを希望を持って見届ける事ができる………ような気がした。
特に……重圧から解放してくれた、先生のYシャツ姿に大きな感嘆の声が発せられる。

………とても勇ましく………

ロック「これが……超変身……」
ティコ「っていうか単に上着脱いだだけじゃないですか」

………美しく………

野次馬のおじいちゃん1「ベッピンさんじゃ〜☆」
野次馬のおじいちゃん2「Yシャツ姿がまぶしいわい☆」

………とても大きく………

野次馬のおじいちゃん3「おっきなムネじゃの〜☆」
野次馬のおじいちゃん4「試合が終わったらメルアドと部屋番号をチェックじゃ!」

………それでいて切ない………

野次馬のおじいちゃん5「あの切なげな表情がソソるんじゃ☆」
野次馬のおじいちゃん6「男とかおるんかのう……」

………危険な………

私「ある意味危険だよね」
ティコ「これってもしかすると、すっごい恥さらしなんじゃ……」

Yシャツ姿で不思議な変身動作を終え、真純先生はこれまでにないほどに凄まじい闘気を噴出させている。

真純「『真純エグザイズ』……爆誕!」
私・ロック・ティコ「ま、真純エグザイズ!?」
おじいちゃんたち「ば、爆誕!?」
真純「いくわよ……」

先生のサーブが唸る! そのスピードは、先程までの女王サーブのまさに数倍であった。

エイジ「ぐぉ……速い!! これが……」

辛くもなんとかボールを打ち返すものの、そのボールは大きく上に浮き上がってしまう。そう、隙だらけである。バウンドして再び大きく舞い上がったそのボールは……先生の絶好の攻撃位置にあった。

真純「真純スマーッシュ!!

鋭く、そしてけたたましい音とともにボールはエイジのフィールドに叩きつけられ、向こうの壁まで唸りをあげて飛んでゆく……。そして壁から跳ね返り、再び私たちの方へと飛んできたボールは……見ると、『真純スマッシュ』の衝撃に耐えきれずにボコボコにひしゃげていた……。

エイジ「な、なんという事じゃ! 1バウンド目までは右回転だったのが……
    2バウンド目からは左回転じゃとぉ!? バ、バカなぁ!?」

エイジさんが初めて驚愕の声を上げる。それまでの彼が放っていた重圧は、今や完全に消滅していた。
真純先生が、静かに声を吐く。

真純「女王サーブ……<零式>……
エイジ「お、おのれぇぇ!」

形勢は一気に逆転した。真純先生の放つ『女王サーブ <零式>』はことごとくエイジの死角をつき、そして打ち返されたボールは必ず大きく舞い上がり、続く先生の『真純スマッシュ』の餌食となる。それは超変身した真純先生が生み出す、完璧無比なコンボ技であった。
すでに点数は5対10。先生のサービスターンはパーフェクトに終わった。
サーブ権を獲得したエイジは、それまで柔和だった顔を激しくしかめ、目には熱き炎をたぎらせている。

エイジ「ふ……今度は手加減なしじゃ。エイジ☆ブラスタァー!!!」

とてつもないスピードで、ボールはコーナーとコーナーを結ぶ。しかし、真純先生はボールが2バウンドを終える前にすでに迎撃位置についていた。

真純「甘いわ! 『真純ヴァイト』!

大きく振りかぶり、先生はボールをすくい上げるように打ち返す。しかし、その軌道は高く浮き上がっていた。ロックとティコの顔が青ざめる。そう、卓球において位置の高いボールは、一撃必殺の『スマッシュ』を打たれる恐れがあり、決してやってはならない致命的ミスなのである。
予想通り、エイジは不敵な笑みをたたえ、大笑いする。
エイジ「がっはははは! 愚か物めぃ、スキだらけじゃ☆ エイジスマッーシュ!!」
狂おしいまでの勢いとスピードで、『エイジスマッシュ』はボールを先生のフィールドへと叩き込む。しかしその時、真純先生がかすかに笑みを浮かべた事に、気が付いた者は少なかった。

真純「かかったわね! 『真純ストライク』!!」

私たちにはもはやボールは動きはおろか、先生の一挙一動すら見えなかった。それ正に『神速』!!
次の瞬間に私たちが見たのは……エイジさんがフィールドコーナーへととっさに身を投げ出している姿だった。そして向こう側の壁から凄まじい勢いで飛んできたボールが地面に落ちた途端、粉々に砕け散ったのを見たとき、私たちは真純先生が『エイジスマッシュ』を完璧に打ち返した事を知った。そう、『スマッシュをスマッシュで打ち返した』のである。

観衆から大きなどよめきが沸き起こる。エイジさんの必殺サーブ、『エイジ☆ブラスター』はもはや真純先生の敵ではなかった。打つたびに先生のフライが返され、それをスマッシュで打とうが用心してカットで切り込もうが、次には強力無比の『真純ストライク』が敢行される。次々とボールが潰れて使い物にならなくなる中で、点数はとうとう10対10の同点へともつれ込んだ。

ロック「す、すげぇ……」
ティコ「これが……真純先生の本当の力……」
かすみ「す、すごいです……」

私たちの感嘆とともに、エイジさんの仲間達からは明らかな動揺の声が広がっている。無理もない。わずか5分足らずで、それまでのリードが完全に失われてしまったのだ。
だが、エイジさんは猛烈なプレッシャーを受けているであろうにも関わらず、その顔には笑みを浮かべていた。

エイジ「『ヴァイト』……ふっ、なるほど。『おとり』という意味じゃな……。
    じゃが引っかかろうが見破ろうが……あの『真純ストライク』とやらは取れそうもないわい……。
    がはは……が〜はっはっはっは!」
どういうわけか、エイジさんの表情は歓喜に満ちあふれていた。笑い声が辺りに響き渡る。

真純「あら? 何がそんなに可笑しいのかしら?」
エイジ「嬉しいのじゃ。強い相手と戦えて嬉しいのじゃ!
    ワシは生まれてこの方、卓球で負けた事は一度もない。
    長い間ワシは、己を超える相手を探し求めておった。
    そして今までに戦った相手の中でも、ここまでワシを追いつめたのはアンタが初めてじゃ。
    これで心おきなく、ワシも真の力を解放することが出来る」
私・ロック・ティコ「なっ!?」

満面の笑みをこぼすエイジの口から、衝撃の言葉が放たれた。だがそれに驚く私たちをよそに、真純先生は眼光を輝かせる。

真純「ふふふ、やはりそうだと思っていたわ。いいわよ、出しなさい! あなたの真の力とやらを!」

先生のその言葉を合図に、エイジさんは「むん!」と体全身に力を込め、奇怪な変身ポーズを取った。

エイジ「超力招来!!

その力在る言葉とともにエイジさんも着ていた上着を脱いだ。そこには大きな羽が……やはり、無い。

エイジ「我は……卓球を極めし者……。人はワシを、『卓球神エイジ』と呼ぶ……」
私「た、卓球神エイジ……」
ティコ「カッコ良いような……カッコ悪いような……」
エイジ「がはは! これでお互い全力……負けても恨みっこなしじゃ」
真純「お〜っほっほっほ☆ 望むところよ。それじゃあ……」

二人は自信に満ちた笑みを浮かべ、互いの眼光をぶつけ合った。

エイジ&真純「死合うとしようぞ!!

(注:死合う=死闘する の意)


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