３人は、私たちとはまるで比較にならない位、別次元と言って良いほどのハイレベルな戦いを繰り広げていた。
真純「カモォ〜ン☆ ボウヤ達☆」
ティコ＆ロック「はあっ……はあっ……はあっ……」
余裕ぶちかましの表情を浮かべる先生を相手に、ダブルスを組んでいるティコとロックは何故か激しく息を切らしていた。二人の表情は真剣そのもの。いや、というより何かに驚愕しているような、信じられないといった顔をしている。
ロック「いくぜ先生！ 食らえい！ ザ・ロックスペシャルッ！！」
高らかにボールを投げ上げ、落ちてくるボールをラケットで真横に擦るようにして、ロックは目にもとまらぬ速さのサーブを繰り出した。
球の軌道はネットを危うくかするほどに低く、そして長い。だが私が目で追う事さえ困難な猛スピードのボールを、真純先生はものすごい勢いで打ち返した。
スパーン！
気持ちの良い音とともに、ボールはロックとティコのフィールドに叩きつけられ、そして二人の肩を通り越して向こうの壁まで唸りを上げて飛んでいった。
ティコ＆ロック「…………」
立ちつくす二人。そろって仲良く５秒間ほど固まった後で、ロックが仁王像の様なすさまじい顔をしてティコにかみついた。
ロック「ティコぉ！ てめえあれぐらいちゃんと取りやがれっ！！」
ティコ「取れるワケないでしょう！ あんなのっ！！」
ケンカする二人に、先生は早くも勝者の笑みを浮かべながらねちねちと挑発した。
真純「あらぁ〜ん☆ もう終わりなのかしらぁ？」
ロック「まだまだぁ！」
ティコ「今度は先生のサーブです！」
真純先生はフフン☆と鼻をならすとボールを持った片手を高らかに頭上に掲げ、華麗に決めポーズを取って高笑いした。
真純「お〜ほっほっほ☆私の実力、思い知るがいいわ！ 名付けて！ 女王サーブっ！！」
目にも止まらぬ動きでボールに怪しげな回転をかけ、打ち出した。ボールはバウンドするたびに複雑奇怪に軌道を変える。だが、ロックとティコにはその不思議な挙動をする球よりも、先生のネーミングセンスの方に恐怖を覚えた事は言うまでもない。いや、ネーミングセンスというよりも、性格の問題だね。これは。
ロック「ティコぉおおおおおお！！ 取れっ！！ 取るんだぁああああああ！！」
ティコ「くおおおおおおおおっ！！」
２度目のバウンドでほとんど真横へと軌道を変えたボール。このままではラケットがとどかない！ だがティコは歯を食いしばり、まるで前世の頃を思わせる俊敏な動きでボールの前まで移動し一気に打ち返した！
ロック「よっしゃあああああああ！！」
パシーン！
だが次の瞬間、音のした方向へ目を向けたティコとロックの二人は思わず凍り付いた。彼らの目線の先には私が居た。説明しよう。ティコの打ち返した球は先生がボールにかけた怪しげな回転のおかげでとんでもない方向へ飛んでゆき、早い話が私のおでこに直撃したのである。
二人は時間が止まったかのように、口を開けて呆然とその場に立ちつくす。漫画でよくある『石化した』という奴である。
真純先生が、勝ち誇ったように二人に言った。
真純「どう？ これが女王サーブよ☆」
ロック＆ティコ「おみそれしましたぁー！！」
ロックとティコは二人仲良く揃って土下座をし、先生に深々と頭を下げた。ってこらぁああああああああ！！ 頭を下げる相手が違うでしょうがぁああああああああ！！
これでまた二人は真純先生に頭が上がらなくなるんだよね、きっと。そしてそれは私が今後さらに先生にイヂめられる事にもつながるワケで……。先生、きっとますますつけあがるよ。まずい、まずいっす。誰か、誰か先生をあっと言わせるような人いないのぉ？
？？？「ちゅるっるっるるる☆ でゅっわ〜☆」
変な声が聞こえた。少なくとも、人間の声であることは確かだが……。