P.E.T.S[AS]

第5話「温泉旅行」

遅い遅い朝ご飯を済ませた私たち一行は、旅館内の卓球台が置いてある広間へとやってきた。
ちなみに、大浴場の近くにあるというのは決して偶然ではあるまい。そして明らかに風呂上がりの客のために用意されていると思われる、コーヒー牛乳専門自動販売機。なんで他の置いてないの?

真純「いやっほ〜う☆ なかなか良いところじゃな〜い☆」

卓球台は横一列に仲良く3台並んでいた。所々傷が付いているのはご愛敬だが、ネットは全てぴんと頑丈に張ってあるし、台が変な角度に傾いていたりすることもない。カウンターで借りたラケットやボールも粗悪な物はなく、比較的良い管理が行き届いていることを伺わせる。きっと多くの人たちが楽しむ、ちょっとした人気スポットなんだろう。

私「でも、いいんですか? 書類まだ書き途中なのに……」

昨日から書き始めてはいるものの、多分このペースでは旅行が終わるまでにはとても間に合いそうにない。なんで本人より私の方が心配しなきゃいけないんだろ。そんな私に先生は笑いながら答えた。

真純「だぁいじょうぶ☆大丈夫ぅ☆ 一応昨日の電話でも『わたくしそれを考えると夜も眠れません』という事でまとまったし」

いや、それ全然まとまってない……。

ティコ「丁度そこの二つの台が空いていますから、二つのグループに分かれましょう」

もう一つの台では、4、5人位のおじいちゃん達が元気に卓球を楽しんでいた。まああの感じでは卓球というより、ピンポンと言った方がいいかもしれない。ラケットを持っている方も、見物している方も、みんなで仲良く子供のようにはしゃいでいた。ああいうのも良い余生の過ごし方なんだろうな。
ロックの提案で、グループ分けは特殊なじゃんけん(グットッパ、と言うらしい)で決めることになった。なんでもグーとパーしか出せなくて、2つのグループにメンバーを分けるときに重宝するとか。

5人『グットッパ!』

一発で決まった。グーを出したのはティコとロックと真純先生。パーは私とかすみちゃん。おそらく、それぞれの技量という点から見ればかなりフェアな分かれ方だろう。運動が苦手な私と、かすみちゃんなら、のんびりしたプレーを楽しめるかもしれない。ただ、かすみちゃんはティコと組めなくて少しがっかりしていたようだが。

私「じゃあ、やろうか。かすみちゃん」
かすみ「はい!」
 
 
前言撤回。かすみちゃん、上手すぎ……。いや、やっぱり単に私がヘタなだけかもしれない。
かすみちゃんのボールは大して速いわけではないのだが、私が打ち返しても2回に1回はあらぬ方向へと飛んでいく。野球じゃないんだから、と頭の中で自分にツッコミを入れつつ、なんとかコツを掴もうとするのだが、そこはずぶのド素人。そう簡単にほいほいコツなんて掴めるものではない。やっぱり私みたいな運動苦手な奴は、何やってもダメなのかな。ああ、なんか自信無くしちゃう……。

私「かすみちゃん、上手だね」

正直な賛美を送り、もう何度目か分からない、落ちたボールを拾いあげてやたら隙だらけのサーブをする。

かすみ「え? は、はい! 友達と何度か一緒にやった事あるから……」

器用にボールを打ち返しながら答える彼女。口を動かしながら打ち返すなんて芸当、私にゃできないよ。その顔はとてもさわやかで楽しそうだ。華奢な身体をボールの軌道に合わせて左右にすばやく動かし、危なげなくラケットにボールを当てる。こういう感じの子、卓球選手に向いてるんじゃなかろうかと私は勝手に思った。

私「ねえ、かすみちゃん。ちょっと休憩しない?」
かすみ「え? はい。いいですけど」

意外そうな顔をして立ち止まる彼女。口には出さないが、それでも少し物足りなさそうな顔をしている。
ああっ!ごめんなさい。全ては体力のない私が悪いの……。
とりあえず、近くにある木でできた背のない、ベンチのような横長の椅子に二人で座る。することもないので、私たちはティコ、ロック、真純組の様子を観察することにした。


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