一瞬私は耳を疑った。
私の聞き間違いでなければ……彼女は私に向かってこう叫んだのだ。
「いぢめてやるぅ☆」
彼女がこちらに向かってもの凄いスピードで走ってきた。
一方の私はと言えば、情けないことに足がすくんで全く動けない。
15メートルほどの距離が、ものの数秒で無くなってしまった。
そして彼女とぶつかる寸前に……ティコが私を見捨てて地面に飛び降りた。
ぐわし!
いぢめ第1弾、彼女が私の髪の毛をぐしゃぐしゃにかき回してきた。
「うわああああああ!」
せっかく出かける前にお母さんに整えてもらったのに、めちゃめちゃになってしまった。
「すご〜い!この髪きれ〜☆」
いぢめ第2弾、ほっぺを両手でぐにぐにと引っ張ってきた。
「ほれほれ☆ど〜だぁ☆」
「フニ〜フニ〜」
「ふに〜☆ だってぇ!かわいぃ〜!!!」
いぢめ…………第3弾
「ねぇねぇ!お友だちにならない!?ねぇ!」
絶っっっっっっっっっっっっっ対にお断りだ。
「ふにぃいいいいい……ふぇ……ヒック……」
もう限界だった。目の前の悪魔のような女の子が誰だかはどうでもいい。
とにかく、私は恐くて泣き出した。
「ふぇえええええええええん」
「ああ〜! 泣いたぁー! 泣き顔もかわいぃ〜☆」
「ふにぃいいいいい。お父さぁあああああああん」
「げえ! 保護者いるの!? 早く言ってよぉ!」
悪魔の子が、初めて動揺を見せた。
「ひぃいいいいいいん」
「わ、悪かったって、謝るから泣きやんでよ! 親父にバレたら殺される……」
「ふええええええええ」
「泣きやめぇええええええ!!」