真純「そうだったかぁ〜。そりゃ悪い事したわねぇ。ごめんね」
意外にも、先生は自分の非を潔く認めた。どうやら、今回ばかりは自分でもやりすぎたと後悔していたらしい。
私「全く、いい迷惑だったんですから」
真純「だからこうやって謝ってるじゃない。ごめんね、かすみちゃん☆」
私「私には!?」
真純「冗談よん☆」
笑いながら詫びる先生、ホントに反省してるのかしらね。
また同じ過ちを繰り返さないように、なにか誓約書でも書かせようかな。
真純「で、かすみちゃんは一体誰が好きなんだっけ?」
私「ティコですって」
真純「まあ!それじゃあかすみちゃんと先生はライバルね。ぐひ☆」
私「先生、バカも大概にして、真面目にやって下さい」
真純「きょ、今日の美月ちゃん……きっつ〜い……」
私に睨まれた先生はおほんっと咳をして真顔に戻ると、私たちのやりとりを黙って横で見ていたかすみちゃんに、優しく話しかけた。
真純「でもどうしてそんなに自分に自信がないわけ? とっても可愛いのに、ふっしぎ〜」
かすみ「……」
言葉が見つからないのか、少し目を潤ませて押し黙るかすみちゃんに代わって、私が何か雰囲気的にしゃべらざるを得なかった。
私「本当に、可愛い子に目がないんですね」
真純「そうよお☆私も昔は可愛い子を見つけては、色々とイビってたなぁ☆」
…………
その犠牲者が今ここに居るとも知らずに……ふっ……今に見ておれ……。
かすみ「で……でも……私みたいな……子供……」
彼女の首が俯く角度は、どうやらその時の気分の浮き沈みに忠実に対応するらしい。今日でもう十度目くらいに思える、顔を伏せながらようやくか細い声で話す彼女に、先生は椅子から勢いよく立ち上がって彼女の頬を両手に挟んだ。両者の顔が急速に近づく。
真純「ねえ、大人の女性っていうのは容姿端麗で背が高くて身のこなしが良くてその他もろもろ……なんて、一体だれが決めたって言うの?」
かすみ「え?」
今まで私が見たこともないような優しい表情で笑い掛け、先生は続けた。
真純「いい? かすみちゃん。女はね、生きてるだけで偉いの。
男は女にエネルギーをもらって、生きているのよ。その特権に不平等無し!
女に生まれて良かったなって思えたら、それでかすみちゃんの勝ちなの☆
あとは自信を持って、男どもにそれを示せばいいのよ。
あなたが自信をなくしちゃったら、
将来のダンナさんはあなたからエネルギーをもらえなくなるわ」
かすみ「真純……先生……」
なんだか子供相手に凄い論理を展開しているように私は思うのだが、当のかすみちゃんはまるで啓示を受けたかのように先生の目をじっと見つめたまま耳を傾けていた。
真純「だから今日から、かすみちゃんは自分に自信を持って堂々と生きなさい。
そうすれば、なれるわ。ティコ君が思わず振り向くような、大人の女に☆」
かすみ「はい!!!」
何がなんだか私にはさっぱりだが、どうやら啓示は完了したらしい。二人で意気投合して、両手と両手をぎゅっと握り締め合っている。
真純「キャアアアアア〜〜〜〜☆
私ってば、強力なライバル増やしちゃったわぁあああああああ〜〜〜〜〜☆」
かすみちゃんの両手を掴んで、その手をぶんぶん振り回しながらどんどん壊れていく先生……。
御愁傷様……。
かすみ「ウフフ……アハハハハ……」
振り回されている手につられて華奢な体を揺らしながら、ソバ屋「よいさ」の看板娘は、今まで一度も見せたことのない満面の笑顔を浮かべて、ずっと笑っていた……。