足の短い、いわゆるちゃぶ台型テーブルの上に出されたほうじ茶を飲みながら、おかっぱ頭の女の子は部屋全体を物珍しそうに眺めている。
私「ふふ、そんなにこの部屋が珍しい?」
かすみ「あっ!いえっ……すみません。……じろじろ眺めちゃったりして……」
はっと私の顔を見て、すぐに俯きながら詫びる彼女に、私は自分の幼き頃を思い出していた。私がこの子くらいの時って、やっぱりこんな感じだったのかな。
かすみ「ティコさん、ここに住んでるんですよね」
私「そうよ」
顔を伏せたままお茶をすする彼女。両手で包むように湯飲みを持って、味わうように飲んでいる。
どうもティコに気があるようだけど……。
私「好きなの?ティコの事」
……。
……あ……。
真っ赤っかになっちゃった……。
かすみ「あの……さっきは……ごめんなさい」
私「あ、うん。いいの。全部あの先生が悪いんだから」
あとで文句言ってやろう。ティコとロックにも手伝わせて……。まあ、文句言うくらいしかできないけど。
かすみ「あの女の人……とっても綺麗な人ですよね」
お茶を飲み干して、彼女は小さな声でつぶやいた。
私「そうだね。願わくば、性格も美人だといいんだけどね」
かすみ「あの女の人も、ティコさんの事好きだったみたい……」
私「うん……まあ……本気なのかどうかわかんないけど……」
本気だったらどうしよう。ボンテージ姿の先生が、何故かやおい系の気弱な男の子になっているティコにムチをしならせて迫っている嫌な想像をしてしまって、私は自分の不思議な想像力を激しく呪った。
かすみ「もしそうなら……私なんか……絶対にかなわないなぁ……・」
お茶にアルコール成分など入っているはずもないが、あるいは先ほどの赤面がまだ残っているのか、頬をほんのりと染めている彼女は湯飲みを両手で茶道のようにくるくる回しながらため息をついた。
私「え……と……」
こういう時って、どう慰めればいいんだろう。
かすみ「美月さんも……すごく大人っぽいし……私、自信無くしちゃうなぁ……」
え!?
……今……なんと?
私「大人っぽい?私が?」
かすみ「はい。とっても素敵です。」
そう言ってかすみちゃんは顔を上げて弱々しく微笑んだ。
なんて可愛らしい子なんだろう!私が今まで童顔だとか子供っぽく見えるだとか、全く正反対な事を言われ続けていた事を彼女が知ったらどう思うだろうか。
今にも私は座布団から立ち上がって舞い上がりたい気分だった。
かすみ「だから……こんな私なんか……ティコさんには……絶対……」
かすみちゃんの声が急に空気を切り裂くようにトーンが高くなり、そして最後は、すすり声になった。
顔色を伺われることを拒絶するかのように、完全に顔を下に伏せている。
私「かすみちゃん?」
しばし無言のまま、かすみちゃんは背中を丸め、身体を縮こませていた。
そして彼女の小さな肩が……震えだした。
かすみ「ダメなんです、私。……学校でも……友達が……子供っぽいって……
それに、ドジだし……朝、自分で起きられないし……おどおどしてるし……
私なんか……」
テーブルに、大粒の涙がこぼれ落ちた。
かすみ「でも……2週間前……ティコさんと初めて会って……
あの時、すごく胸がどきどきして……ずっと気になって……
私に興味持って欲しくて……
最近、思うようになったんです…………綺麗になりたいって……
でも………………私……やっぱり……」
とぎれとぎれに話す彼女の肩が、まるで怯えた子猫のように小刻みに震えていた。
テーブルにとめどなくこぼれ落ち続ける涙……。
私は素直に思った。
この子、本当にかわいい、と。
私「ねえ、ちょっと遊びに行かない?」
私はしゃくり上げながら泣いている彼女に自分のハンカチで涙を拭いてあげた。
かすみ「え?」
私「面白いところに、連れて行ってあげる」