美月「それじゃ、頑張ってね。二人とも」
会計を済ませて帰ろうとする先生とご主人様。
私はご主人様に、バイトの帰りに買い物に行くが何か欲しい物はないか、と尋ねた。
美月「ん、別にないよ。まあ強いてあげれば、工房って空気乾いてるから、のど飴くらいかな? でもそれくらいなら私、今からアパートに帰るついでに買ってくるし、いいよ」
「わかりました」
美月「じゃあね」
財布をバッグにしまい込んで、ご主人様がよいさを出ていった。
先生「かすみちゃん。ちょっとこっち来てごらん☆」
まだ店内にいた先生がかすみちゃんに向かって手招きをしている。
かすみ「え? あ……はい……」
かすみちゃんはまるで先天性かと思えるようなその小さな声で答えると、未知の世界に足を踏み入れるかのように、ゆっくりと先生の後に続いてよいさの外に出ていった。
真純「ねえ、かすみちゃん。二人とあのお姉さんの関係が気になるのかな?」
かすみ「え!? ……あ……あの……」
真純「やっぱそうか☆いやあね。一応いとこ同士って事になってるらしいんだけど。実は私も常々怪しいな〜って思ってたのよ。」
かすみ「ち、違うんですか?」
真純「まあ、私が予想するところではぁ……☆」
真純「あ、ちょっとぉ! ……かすみちゃ〜ん……!?」
珍しくうろたえた声を上げる先生の元へ駆け寄ると、かすみちゃんが従業員の制服を着たままで商店街を走っていく姿が見えた。
真純「あちゃあ……ちょっとした冗談だったんだけど。真に受けちゃってまあ……」
「先生……一体あの子に何を吹き込んだんです」
真純「ま、いいか」
あっけらかんとした妥協ともやげやりともつかぬ先生の言葉を聞くと、私の神経もずいぶんとこの人のせいで図太くされてしまっていると感じた。
そういえば、かすみちゃんが走っていく方向は確か私たちの住んでいるアパートへの方角だったが、ご主人様の後でもついていくつもりだろうか……。