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第4話「オトナの女性」

最奥の座敷でご主人様と先生はすでに食事を終え、他の常連客もそのほとんどが会計を済ませて帰っていったので、私たちは二人の側で雑談することが許されていた。

真純「ふう〜。ごちそうさま☆ここの天ぷらソバ定食っていつも美味しいわね〜☆」
かすみ「あ、ありがとうございます!」
真純「それに、お嬢さんも可愛いし☆」

まずい……。
ご主人様と目を合わせ、お互いの心配の種が同じであることを確認した。
一方のかすみちゃんは、可愛いと言われた途端、うつむいてしまった。

真純「ね、お嬢さんのお名前はなんていうのかな?」

まるで真夏の海岸に自然発生したナンパ男のような口振りで、さらなる攻勢をかける先生。
かすみちゃんはますます下を向いて、しばらくしてからようやく蚊がすすり泣くような小さな声で、名前を言った。

真純「かあ〜〜〜〜〜っわい〜☆」
ロック「ツボに来たんすか?」
真純「そうよぉ☆名前も☆おかっぱ頭も☆しぐさも☆ぜ〜んぶ☆
   もう食べちゃいたいくらい☆

あ……。
うっかり口を滑らせた本人以外が、全員固まった。
先生……禁句です。それ……。

言う人が言う人だけに、冗談という感じがしない。というのは言い過ぎだろうか。
とにかく、いきなり静まりかえった皆の様子にきょとんとする先生には、自分の失言に全く気がついていないことが分かった。
可哀想に、かすみちゃんは今にも穴があったら入りたいという位に、顔を真っ赤にし全身を硬直させてじっと耐えていた。
そして、それまでの羞恥心を吐き出すかの如く、ようやくその震えた声を絞り出すのだった。

かすみ「あ、ありがとうございます……」


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