アシスタントの仕事というのは単調だ。
材料を倉庫から運んだり、買い出しに出かけたり。ようするに主にやるのは雑用である。そうそう実際の作品制作に関わらせてもらえることは滅多にない。いつもちゃらんぽらんに見える先生だが、そこの厳しさというのは、いわゆる匠の世界の師匠と弟子といったところなのだろうか。
先生の指示の通り倉庫で成型用のモールドの数のチェックを終えて工房へ戻ると、まだ先生はスケッチを見ながら、鉛筆を走らせていた。ついこの前作品を納品して、昨日から新たな天使を作ろうとしているのだ。
その真剣な表情からは、確かに巨匠、藤原 真純の貫禄をうかがわせた。
そして私が、そんな先生のアシスタント……。もっと自覚を持つべきだろうか。
真純「ねぇ、美月」
私「は、はい?」
思わず声がうわずってしまった。
真純「さっきの直訴の事だけど」
……へ?
突然の先生の発言にはっとする。
私「……ちゃんと聞こえてたんですか?」
真純「あったり前じゃない」
先生はさも当然という風に言った。その視線はまだスケッチブックに注がれている。
真純「ま、3番目のティコちゃんについての直訴はおいといて」
おいとくなよ……。
真純「1番目と2番目については考えといてあげる」
突然どす黒い闇に希望の光が差し込んだような気がした。さすが巨匠!そんじょそこらの輩とは器が違う☆
私「あ、ありがとうございます!」
真純「で、特に1番目の電話についての直訴に対する具体的な代替案なんだけど」
……
……はい?
先生はようやくスケッチブックから顔を上げてこちらを見ると、大真面目な顔をしてこう言い放った。
真純「美月、携帯電話を買いなさい」
私「なんでそうなるんですかああああああ!!!!!!」
真純「いや、だからさ☆これからは携帯でお話ししようよ☆」
か……貫禄……巨匠の……貫禄……。
私「もういやぁああああああああ!!!」