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第3話「麗しの巨匠」

アシスタントの仕事というのは単調だ。
材料を倉庫から運んだり、買い出しに出かけたり。ようするに主にやるのは雑用である。そうそう実際の作品制作に関わらせてもらえることは滅多にない。いつもちゃらんぽらんに見える先生だが、そこの厳しさというのは、いわゆる匠の世界の師匠と弟子といったところなのだろうか。
先生の指示の通り倉庫で成型用のモールドの数のチェックを終えて工房へ戻ると、まだ先生はスケッチを見ながら、鉛筆を走らせていた。ついこの前作品を納品して、昨日から新たな天使を作ろうとしているのだ。
その真剣な表情からは、確かに巨匠、藤原 真純の貫禄をうかがわせた。
そして私が、そんな先生のアシスタント……。もっと自覚を持つべきだろうか。

真純「ねぇ、美月」
私「は、はい?」

思わず声がうわずってしまった。

真純「さっきの直訴の事だけど」

……へ?
突然の先生の発言にはっとする。

私「……ちゃんと聞こえてたんですか?」
真純「あったり前じゃない」

先生はさも当然という風に言った。その視線はまだスケッチブックに注がれている。

真純「ま、3番目のティコちゃんについての直訴はおいといて」

おいとくなよ……。

真純「1番目と2番目については考えといてあげる」

突然どす黒い闇に希望の光が差し込んだような気がした。さすが巨匠!そんじょそこらの輩とは器が違う☆

私「あ、ありがとうございます!」
真純「で、特に1番目の電話についての直訴に対する具体的な代替案なんだけど」

……
……はい?
先生はようやくスケッチブックから顔を上げてこちらを見ると、大真面目な顔をしてこう言い放った。

真純「美月、携帯電話を買いなさい」
私「なんでそうなるんですかああああああ!!!!!!」
真純「いや、だからさ☆これからは携帯でお話ししようよ☆」

か……貫禄……巨匠の……貫禄……。

私「もういやぁああああああああ!!!」


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