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第3話「麗しの巨匠」

私「ま、真純先生……お、おはようございます」

さっき入ってきたドアの方を振り向くと、あっけらかんとした感じのショートヘアの長身の女性が、まるで子供のように輝く笑顔を見せて立っていた。背の高さは私より4、5センチ高いといったところだろうか。
作業服であるエプロン姿にショートヘア。一見男の子のような印象を受けるが、その端正な顔だちとスリムな曲線を描く体型からは、十分に女性としての魅力を放っている。

真純「おす!おはよ、美月☆」
ロック「まっすみせんせえ〜おはようっす!!」
真純「お〜っす!ロック君、いつも元気ねぇ〜」
ティコ「おはようございます、先生」
真純「あ……」
ティコ「え?」
真純「だめじゃな〜いティコ君。ちゃんと先生の名前も呼びなさい☆」
ティコ「は、はい。真純先生」
真純「じゃあね、今度は名前だけ☆」
ティコ「ま……真純」
真純「ぐはぁあああああ☆」
ティコ「あ、あの……」
真純「いいっ☆かっこ良すぎよティコ君☆なんかあたしのツボにグサって入っちゃったぁ☆」

こ……この人わ……。

私「あのぉ〜先生……」
真純「いいねぇ〜美月は。毎日この二人と一つ屋根の下で暮らしてるんでしょぉ」

なんかすっごく語弊のありそうな言い方である。

私「前にもいいましたけどね。先生、この二人はあくまでいとこ……」
真純「いっぺんに二人なんて☆みつきってばやだぁ〜☆」
私「こらぁああああ!」

とりあえず、いつまでもドアの側でたむろしている理由は無いので、全員中に入ってそれぞれ落ち着く場所を決める。
ロックは戸棚にいる天使たちを物珍しそうに眺めている。ティコは彼女たちの成形に使われるモールドと呼ばれる石膏の型を興味深そうに物色していた。
先生は椅子に腰掛けスケッチブックをとりだすと、そこにかかれている新たな天使達と目で対話していた。
いつもなら私はここで彼女たちの原型を作る粘土やらなにやらを用意しなければならないのだが、その前に先生に言わなければならないことがある。

私「あの、先生」
真純「うん?」

先生はスケッチから目をそらさずに答える。

私「あのですね、今日こそ言わせてもらいます」

ティコとロックの視線が私の方に集まった。目で応援してくれてる。

真純「何を?」

せ〜の……。

私「たいして用も無いのに深夜とか早朝とかに電話してくるのやめて下さい!それからなにかあるとすぐ食事手当てあげないとか脅迫するのもやめて下さい!それからうちのティコにちょっかいだすのもやめてください!」

ロック「おお〜、美月、やる〜」
ティコ「さすがです。姉さん、よくぞおっしゃいました」
私「うん。ありがとう二人とも☆私がんばったよ☆」

……
……あり?
先生は全く反応を示さず、あいかわらずスケッチとにらめっこをしている。
そのまましばらく待っていると、ついに先生がこちらを向いて口を開いた。

真純「ねえ美月、この子どう思う?」

先生はスケッチに描かれた天使のイメージを私に見せた。

私「へ?その子のデザイン?」
真純「うん、あんたの意見を聞きたいのよ。別に第一印象とか、大体の感想でいいの」
私「いや、かわいいと思いますけど」
真純「そう?私はいま一つひねりが足りないなと思うのよ。」
私「あの……それより、さっきの私の直訴に対してのご返答は……」
真純「へ?なんか言ってたっけ?」
私「せんせぇーーーー!!!」
真純「なぁに怒ってんのよ」

つ……疲れる……。

真純「馬鹿なこと言ってないで、仕事よ仕事!」

私の直訴を無慈悲に無視して、先生はスケッチに顔を戻す。

ティコ「あ、もうそろそろ私たちも」

ティコが戸棚の上の置き時計に目をやると、ロックの脇腹をつついて言った。

ロック「もうバイトいかねーとな」
真純「え〜もう行っちゃうの〜?」

先生がまるで子供のような声をあげる。

ティコ「また、今度来ますから」
真純「絶対ね☆」
 
ティコとロックがスチールのドアを開けて出ていった。そう言えば、今日二人はフルタイムのお仕事だっけ。大変だろうなぁ。主人の私も頑張らないとね。

真純「ばいば〜い☆」

外にまで出て見送っている先生。そんなに二人のこと気に入ってるのかな。あんなに綺麗でお金持ちなのに、なんで旦那さんとか彼氏いないんだろ。もしかして年齢気にしちゃってるとか……?
その容姿と、はつらつとした雰囲気からかなりの若さに見えるのだが、結構歳はいっていると聞く。今まで先生の歳を聞いたことはないのだが、今日こそ聞いてみようか……。
 
私「あの、先生……歳、おいくつでしたっけ……」

すると先生ははっきりと答えた。

真純「永遠の29歳」


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