P.E.T.S[AS]

第3話「麗しの巨匠」

朝食を食べながら、私はあの夢を思い出していた。不思議なことに、あの時の光景のほとんどがまだ鮮明に思い出せる。
ロック、かわいかったな。それからあの面白いお兄ちゃん。ほんと二人ともそっくり。ロックがあの人の姿をかたどって転生したのだから、まあ当然といえば当然か。

ロック「いや〜、やっぱ朝食はハチミツぬった食パンに限る!なあティコ」
ティコ「どうでもいいですけど、あなたが5枚も食べるからすぐにパンがなくなるじゃないですか」
私「あのさ、ロック」

パンを二つ両手に持ちながら交互に食べているロックは、呼び止められると私の方を向く。
……今朝の夢、言ってみるべきかな……。

ロック「なに? 美月?」

う〜ん……

私「いや、やっぱやめた」
ロック「へ? なに? 気になるじゃんかよ」
ティコ「ロック、しつこく聞くんじゃありません」
ロック「女をやめて今日から男になるとか?」
ティコ「黙ってなさいって言ってるでしょう!!!」

しばらくこの思い出は、独り占めしとこう♪

 

 

朝食を終えて、私たちは先生の工房へ向かった。
最近だんだん肌寒くなってきた。もう完全に夏も終わりかな。空を見上げると、雲一つ無い快晴。いや、少しだけ薄い筋のような雲が浮かんでいる。だんだん夕焼けが綺麗な季節になるよ。
さて……と……。
しばらく三人で歩いていると、先生の邸宅が見えてきた。工房は先生の自宅の隣にある。まあ、先生の仕事場に近いところにアパートを借りたのだから、すぐに着くのは当然なんだけど。
たしか最初は先生が仕事場に寝床つくってやるから、そこで生活しろって言ってたっけ。でもそれだけは死んでもごめんだと丁重にお断りした。そんなことになったら24時間先生にこき使われて、話相手をさせられて、プライベートが保てなくなるどこの話では無い。

門の前まで来ると、私はティコに念を押した。

私「いい? ティコ。分かってると思うけど、ここからは私のことはご主人様じゃなくて……」
ティコ「はい。「姉さん」、ですよね」
私「おっけ〜♪」

門の鍵を開けて、三人で敷地に入っていく。
工房のドアの前につくと、深呼吸して私は二人に言った。

私「ティコ、ロック、開けるよ」
ティコ「はい」
ロック「いつでも」

二人に確認を取ると、どうやら二人とも心の準備ができているらしい、私はまだなのに。
しばらく三人とも立ちつくしたまま、静寂が流れる。
これじゃらちあかないね……。
私はいい加減覚悟を決めて銀色をしたスチール製のドアを勢い良く開けた。


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